原発政策と王様のレストラン、実現できるかどうか「それはまた、別の話」 

 30年近く前、夢中になったテレビドラマがあります。「王様のレストラン」。脚本は三谷幸喜、出演は松本幸四郎ら手練れな俳優が続々登場します。ブラックユーモナがたっぷり味付けされたフランス料理店が舞台ですが、展開されるストーリーとともに、森本レオが語るナレーションが素晴らしい。

王様のレストラン「それはまた、別の話」

 とりわけ最後の締めが好き。森本レオが知識をひけらかすように紹介する名言を前菜に始まるドラマは、最後に「それはまた、別の話」をデザートでおしまいになります。

 原子力発電を巡る政策はまるで「王様のレストラン」のストーリーをなぞっているかのようです。戦後最長の首相を務めた自民党の実力者の後を継いだ岸田首相は、次々と大きな政策を転換します。最後の結末を迎えるまで七転八倒のエピソードが散りばめられますが、結末はドラマで展開された脈絡と無縁のまま突然、訪れます。それが「王様のレストラン」の面白さでしたが、現実の政治で見せつけられたら、たまりません。防衛力の強化は、ほとんど議論のまま増強へ走り、増税案も固まりました。戦後、積み上げてきた日本国憲法の精神とどう整合を取るのか。そして原子力発電所の推進です。

GX会議で新増設、次世代炉、運転延長

 政府は12月22日、「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」を開き、東日本大震災による福島第一原発事故以来、原発の新増設や建て替えを「想定していない」としてきた政府方針を大きく転換することを決めました。これから10年間のエネルギー供給と脱炭素化に関する組む基本方針の一つとして、次世代原発の開発と建設、原発の運転期間の60年超などを認めました。

 原発の新増設、運転期間の延長については何度も書いていますので、深掘りはしません。それでも筆(正確にはキーボード)を取ることにしたのは、国民が原発を直視している現実をしっかり見極めているかどうか首を傾げざるを得ないからです。岸田首相はGX会議で「直面するエネルギー危機に対応した政策を加速するには、国民や地域の信頼を積み上げる地道な取り組みが不可欠だ」と語り、原発に関する安全論議を国民に広く説明する考えを示しています。

 資源小国で石油やガスなどエネルギーの大半を輸入に依存する日本です。目の前で価格高騰と供給不安定を体感しているのですから、誰もが危機感を持つのは当然です。だからといって、原発への依存に再び舵を切るのは現実をあまりにも無視しています。

40年間の経験から見て、現実はかなり厳しい

 改めて説明しますが、私自身は40年間以上も前から原発の立地、運転事故などを取材した経験を持っています。東京電力はじめ全国の電力会社、石油・ガス会社を担当したほか、「原発銀座」と呼ばれた北陸地方、福島県、北海道など主な原発の内部にも入っています。それなりには知識と経験がある方だと思います。ついでですが、原発に対しては根っからの反対派じゃありません、むしろ推進派です。反対、推進なんて死語にしたいぐらいですが。

 最初の疑問。まず新規案件は進むのでしょうか。原発が建設するまでには立地選定、周辺自治体への説明、環境調査など数え切れないほどの手順を踏み、一つ一つ乗り越えていく地道な作業が待っています。当然、建設地の自治体の同意が大前提になりますが、県知事や首長は地元住民の声を聞き、判断します。かつては地元のまとめ役が地域の意見を集約する力がありました。関西電力と福井県の自治体で不明朗な金銭に関する事件がありましたが、今の時代に二度通用するわけがありません。

 開発中の次世代炉で高温ガス炉など高速炉も対象になっていますが、すでに実証に向けて長い歳月を費やしているのが実情です。GX会議では2030年代〜40年代に実証炉にまで漕ぎ着ける計画が提示されていますが、誰がお墨付きを示しているのでしょう。

どの地域が立地に手をあげるのか

 2番目は次世代型の小型炉。100万キロワット級の大型炉と違い、建設用地は狭く、既存の原発のように大量の冷却水を必要としません。安全性についても福島第一原発事故の原因となった制御ポンプが故障しても、小型炉を水を満たしたプールに沈めるような発想でメルトダウンを防止する設計思想です。日本企業の開発も始まっています。

 しかし、どこの地域が手をあげるのですか。日本は過疎化が進んでいるので、誰も住んでいない集落や地域が増え続けます。誰も住んでいない地域なら、小型炉建設がすんなり進むというのでしょうか。地方に実家のある人は親御さんに聞いてください。「事故があっても安心だって」。地方は農水産業で生活する人が多い。福島県浜通りが放射性物質を取り除くため、表土や樹木を取り除く風景を思い起こして下さい。「事故が起こっても安全なら受けれいる」と答える人がどれだけいるのか。

 3番目の疑問。新規案件は難しいので、既存の立地先が建て替えの候補になるとします。読売新聞には「関西電力美浜原発(福井県美浜町)や日本原子力発電敦賀原発(同敦賀市)が候補として取り沙汰され始めている」との記事がありました。福井県は24年春、北陸新幹線が延長され、観光産業の振興に取り組んでいます。恐竜博物館は大ヒットし、観光客の集客にも成功しています。

 美浜町や高浜町の原発取材をした際、水泳浴場からみえる原発の風景が観光資源になるといわれましたが、今はちょっと無理じゃないかな。

実現するかどうかは、別の話?

 未来を予測する図は、多くの希望が描かれています。それは「実現する可能性がわずかだが、もし実現すれば私たちの生活がこう変わる」との希望的観測に基づいているからです。

 ところが、政府の原発政策を巡る近未来図は2050年のカーボンニュートラル実現がゴールです。とても間に合いそうもありません。岸田首相としては、実現するかどうかよりも未来図を示すことが最重要だったのでしょうか。GX会議の基本方針を読んでいると、どこからか「それはまた、別の話」とのささやきが聞こえてきそうです。

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