未来を描けない政府は実効力がある経済対策を描けない ラグビーボールは転々と

 寂しい思いを感じませんか。政府が日本の未来をどう描いているのかわからない。国民は多くの権限と信頼を預けて国会議員を選び、首相に日本の平和で安心して生活できる未来の創造を託しているのです。ようやくコロナ禍を乗り越え、消耗どころか衰退している日本経済を再生しなければいけない時期に立っているのに、その旗振り役がキョロキョロ。開催中のラグビーW杯に例えれば、がっちり組んだフォワードがスクラムから送り出したボールを握ったスクラムハーフがどこへ回そうか迷っている。横一線に並んでボールを待ち構えている国民は困ってしまいます。

スクラムハーフが迷ってしまったら

 岸田首相は9月25日、10月中の策定を目指す経済対策の骨子を発表しました。①物価高への対応②持続的な賃上げと地方の成長③国内投資の推進④人口減少対策⑤国土強靭化など国民の安心・安全の確保の5本柱です。「物価高に苦しむ国民に成長の成果を還元し、コストカット型の経済から歴史的転換を図る」と説明しました。

 具体的には、賃上げした企業に対する助成金、年収が一定額に達すると年金などの社会保険料負担で手取りが減る「年収の壁」に対する支援強化、さらに年収を押し上げる原資として「特許などの所得に対する減税制度の創設」や「ストックオプション(自社株購入権)の減税措置の充実」などを挙げています。詳細は新聞やテレビで報道されていますので省きます。

 皆さんももう気づいているはずです。目新しい取り組みはありません。この10年間、いやバブル経済がはじけて以降、日本が取るべき施策として言われ続けていたものです。簡単に言えば、焼き直し。男性が働き、女性が専業主婦という構図が崩れ、時代にそぐわないと指摘され続けてきました年収の壁、社会保険料負担などはまだ改革案すら曖昧です。前進していません。

既視感のある政策ばかり

 それでは日本の未来、岸田首相が唱える「新しい資本主義」の原動力になる経済改革はどうでしょうか。今回の経済対策の中には重点的な投資育成策を盛り込むそうですが、半導体や蓄電池、バイオ関連などを対象に5ー10年の単位で企業の生産コストの負担を軽減する税制を検討すると伝えられています。企業が中長期で投資するリスクを軽減する狙いでしょうが、過去の投資支援策と大きな違いは見当たりません。

 政府が重点投資と想定する半導体や蓄電池は、カーボニュートラルに向けて電気自動車(EV)や人工知能の急速な普及に伴い、需要は増加しています。バイオテクノロジーは医薬にとどまらずCO2排出を抑制する合成燃料など活躍の場は多岐に広がっています。企業が成長するためには自らのリスクを背負って投資すべき案件です。

 政府がリスク軽減を狙って税制改革するのは歓迎です。繰り返しになりますが、従来の投資減税とどこが違うのか。そしてその実効性をどこまで見込んでいるのか。1980年代から企業誘致やベンチャー育成などの税制、補助金支援を取材してきました。その経験から見ても、政府や自治体が特定の分野に限って投資支援する施策は工場の新増設への刺激となっても、新産業育成の起爆剤にはなりません。政府の支援がなければ投資しない会社だとすれば、支援してもその事業が成功する確率は低いでしょう。過去30年の教訓が今回の経済対策や今後の改革案に反映しているのでしょうか。

「日本が変わった」と驚く政策を

 もっと日本の企業、人材の意識を変革する大胆な政策を考案できませんか。ベンチャー企業が上場した利益を国に収めれば、国はその3倍の投資資金を無利子で供与するとか。野球の三振アウトに倣い、倒産三度までは借金棒引きとか。失敗と成功を楽しむ社会に移らない限り、閉塞感から抜け出せない日本の活路は拓けません。

 日本の改革が遅れている最大の理由は、過去の成功体験から抜け出せず、小手先の改革に固執していることです。現在の岸田政権は悪癖をなぞっているに過ぎません。誰もに批判されない経済対策、「新しい資本主義」を目指しても、国民は冷めた目で眺めているだけです。そろそろ優等生の殻を破って、海外からも「日本は変わった」と驚かせる大胆な政策を絞り出して欲しいです。

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