• HOME
  • 記事
  • Net-ZERO economy
  • 人口減・市町村消滅は怖くない(下)新幹線が停車しても人は増えない 情流・人流で街を創り直す

人口減・市町村消滅は怖くない(下)新幹線が停車しても人は増えない 情流・人流で街を創り直す

 「注文はどうする?、焼きそばにしなさい。男なら大盛りにしなさい」。

お店に入り、椅子に座りメニューを見た途端、注文が決まりました。2011年8月、JR北海道の木古内駅を降ると、目の前に「急行」と描かれた看板が数えきれないほど並ぶ食堂がありました。「駅前飯店 急行」です。磁気に吸い寄せられて店のドアを開くのは当然でした。

「男なら大盛りにしなさい」注文は即決

 焼きそばはとてもおいしかったはず。入店早々、強烈なパンチをもらった店主の女性との雑談が面白すぎて、味は忘れました。店名は、開店した1950年代に「急行でも止まればいいのに」との願いを込めて決めたそうです。北海道南部の木古内町は函館市と江差町・松前町を結ぶ交通の要所ですが、農水産業に頼る典型的な地方自治体。函館市が北洋漁業基地として活気に溢れていた1960年(昭和35年)をピークに人口は減り続けていました。幕末に日本と米国を往来した「咸臨丸」が座礁で沈んでおり、なんとか観光名所にと努めますが、空回り。駅前を降りてすぐに看板「急行」が目立つ事実でわかると思います。

2011年8月の路線網

2011年8月当時の木古内駅

 店主の強い願いは叶います。1988年の青函トンネル開通後は特急が停車。訪れた2011年8月には2016年3月に開業を控えた北海道新幹線の駅も開設されることも決まっていました。北海道新幹線が開通すれば、街は変わる。淡い希望はありました。ただ、2024年5月現在でも町の人口減は止まっていません。店主は新幹線開業後から1年余りすぎた2017年5月に厨房で倒れ、お亡くなりました。とても寂しいです。

北陸新幹線延伸で期待の声は高まるが

 2024年3月、北陸新幹線が福井県敦賀市まで延伸しました。1月に能登半島地震があり、甚大な被災が広がっていますが、石川県南部や福井県の沿線都市は地域経済の活性化を期待する声が高まっています。新幹線同様、JR東海が進めるリニア中央新幹線構想にも沿線地域で起爆剤としての効果を見込む予測が目立っています。

 新幹線、リニア中央新幹線など高速鉄道網が充実すれば、海外からの観光客も含め多くの人の流れが発生します。短期的な経済効果は見込めるのは事実です。しかし、人口減に覆われる日本全体で冷静に眺めたら、果たして・・・。

 東北地方を見てください。東北・秋田・山形の新幹線網の充実によって東京との時間的な距離が大幅に短縮され、これまで取り残されていた秋田、山形両県の利便性も大幅に向上しました。

ストロー効果で仙台に吸い取られる

 ところが現実はどうでしょうか?。一泊が当たり前だった仙台出張は日帰りになり、仙台支店を撤収する企業も現れます。秋田市や山形市では、仙台市と簡単に行き来できるので、仙台市が周辺都市からヒトもカネも吸い込むストロー効果が出てしまいました。ただでさえ地方の市町村は人口流出の歯止めに四苦八苦しているのに、地域の中核都市に人口と経済がより集中し、他の都市の”過疎化”が加速する恐れが高まっています。

木古内町の街中のカラオケ店

 東京や大阪も例外ではありません。過疎や限界集落などと無縁と思えるかもしれませんが、住んでいる地域の平均年齢は高まり、知らない間に65歳以上が過半を占める限界集落に向かっています。

街の維持にはデジタル情報、対面のお付き合いは不可欠

 地方の市町村が人口減に対応しながら、自治体、あるいは地方分権の形を守るためには情報と人の流れを維持するしかありません。点在する集落を置き去りすることなく、住民間のニーズに応えられるデジタルを活用したコミュニケーション・ネットワークを充実するのです。市役所などハコモノ建設などに無駄遣いせず、役所が抱える機能を自宅の電子機器などでアクセスして住民票など諸手続きを簡単に処理できる体制です。市町村の庁舎を核にした街創りを修正して、住民へのサービスをいかに高めるかに特化するのです。北海道北見市などではすでにワンストップで手続きが簡便に済むシステムを構築しています。知らぬ間に市町村の境界は消えてしまっているかもしれません。

 だからといって情報網に頼りすぎて住民間のコミュニケーションに支障をきたすことは絶対に避けなければいけません。たとえ日常生活、自治体などの情報を共有できたとしても、人と人が直に対面して接する機会が失われてしまっては自治体は崩壊します。町内会の復活といえば、何を今さらという声が聞こえてきますが、一人住まいの高齢者がますます増えており、日頃から近所同士のお付き合い、集落同士の交流などを改めて増やす機会、態勢に知恵を絞る時です。

 あえて造語すれば、デジタル網を利用した情報で住民間のコミュニケーションを「情流」、近所付き合い、隣接する集落同士、時には距離に縛られずに遠隔地の市町村同士による親密度を「人流」と呼びたい。東京、大阪、名古屋、札幌、福岡などが都市として残る日本は、想像したくありません。新たな街を創造するため、発想を大きく変えるしかありません。

 木古内町の「駅前飯店 急行」で焼きそば大盛りを食事した後、せっかくなので停車、1泊することにしました。宿泊施設の温泉に浸った後、部屋に戻ると夕焼けが始まっていました。素晴らしい夕焼けでした。こんなに美しい夕焼けは東京や大阪で体感できません。どの市町村も日本の素晴らしさを語っているのだと実感したものです。

木古内町からの夕焼け

関連記事一覧

PAGE TOP