節ガス、節電、節炭素 資源小国・日本 脱常識へ脱皮できるか

 欧州連合(EU)の欧州委員会が天然ガスの節約を主軸にした緊急計画案を公表しました。ロシアはウクライナ侵攻に伴う欧米などの経済制裁に対抗するため、欧州への天然ガス供給を絞り始めています。EUは他の地域から調達するほか、太陽光など再生可能エネルギーを拡充して補いますが、EU加盟国に対して天然ガスの消費を15%削減するよう要請します。ガスや石油の需要期である冬に備えてエネルギー不足の危機感を共有するとともに、EU団結を確認する狙いも込められています。当然ながら、日本にとっても”対岸の災難”として静観しているわけにはいきません。欧州を参考に思い切ったエネルギー節減を覚悟をすべきです。

EUは加盟国と危機意識の共有に懸命

 欧州委の加盟国に対する提案は来年3月までの8ヶ月間、天然ガス消費量を過去5年間の平均と比べて15%減らすもの。各国が自主的に進める形式を取るものの、需給状況が厳しさを増した場合は強制措置に切り替えるようです。企業に対してもガス消費を減らすインセンティブをつくり、ガス消費を減らした分をオークションで売却できる仕組みも設けています。ガスから他の燃料に転換する補助金制度も検討。声高に削減を叫んでいた石炭火力や消費についても一時的増加を認めるようです。

 ロシア産天然ガスがEUの消費に占める比率は5割近くあるそうですから、ロシアが供給を絞ればEU各国の打撃は計り知れません。フォン・デア・ライエン委員長は「ロシアが天然ガスを兵器に使用している」と非難するほどですから、ウクライナの戦線から離れたEU域内でもエネルギー戦争が勃発している認識であるのは間違いありません。

「明日は我が身」の日本

 「明日は我が身」。今の日本です。ロシア産の天然ガスは「サハリン2」を主に日本の輸入全体の9%程度だそうですから、欧州ほどの脅威と映らないかもしれませんが、それは大いなる的外れです。欧州は原子力や太陽光、風力などのエネルギーを使って各国で電力を融通し合うネットワークが出来上がっていますので、かなり厳しい状況であるのは間違いないのですがまだ打開策を探る可能性はあります。

 ところが日本は海に囲まれ、電力融通はできません。頼みの原子力発電は再稼働が予想通りできるかどうか不透明なままです。ロシアはサハリン2に関する日本側の権益を無償で譲渡するように求めています。日本の場合、パイプラインで調達する欧州と違って液化天然ガス(LNG)として輸入しますから、輸送・貯蔵などの設備を急に拡大することはできません。しかも、天然ガスは中国を中心に世界各国が競って購入しており、価格も急騰。ロシア産がゼロとなったら、その穴埋めは容易ではありません。

 それよりも日本はすでにエネルギー不足に直面しているのです。発電所の稼働状況もあって電力は不足しており、政府は8月末にも節電に努めた企業や家庭にポイントを提供する金銭インセンティブ制度をスタートします。天然ガスについても節電に続いて「節ガス」というフレーズで普及させ、需給逼迫時には強制的な節ガスを実行できる制度の検討を始めています。

 しかし、電力、石油・ガスの需要期は冬です。ロシアのウクライナ侵攻が年末まで決着する見通しはありませんし、天然ガス不足の状況は恒常的に続きます。中東の産油国などが参加するOPECは小幅に増産する計画を決めましたが、エネルギーの需給バランスを変えるインパクトを期待できません。

従来の延長線上の施策では窮状を打開できません

 日本は従来の節電の延長線上にある発想で節ガス、「節エネルギー」の新制度を打ち出しても、窮状を打開できそうもありません。高騰したガソリン代に対する補助金で上値を抑える措置を実施していますが、これから目の前に現れるエネルギー不足は小手先の施策で解決できる代物ではないのです。

 日本政府のエネルギー対策は国民の反発を恐れて小出しにする癖があります。冬に迎える窮状を乗り切るためには、より大胆な施策が必要です。例えば、交通機関が発達した大都市での車の利用を制限するとはどうでしょう?「不要不急」という言葉が冠につくでしょうが、ガソリンや軽油などの消費抑制効果がどのくらいあるのかよりも、重要なのは発想の転換です。足踏み状態が続き、もう忘れさられたかのような脱炭素計画を思い出す良いきっかけになります。

ダウンジャケットを着て仕事をするのはどう?

 あるいは、室内の温度を下げるため、会社などのオフィスでダウンジャケットを着て仕事をすることを認める、なんてどうですか。東京でもスキー場に向かうファッションで通勤電車に乗り、仕事する。日常の生活スタイルを変えるのはつらいですし、長続きしません。せめてビジネススタイルを変えるぐらいの許容範囲はあっても良いかなと。そうなるとビジネス関連の業種がコロナ禍に続いて売り上げが激減すると悲鳴を上げるでしょう。何かを変えようとすると、誰かが不幸になってしまいます。

 しかし、資源小国・日本を取り巻くエネルギー事情は変わりません。いつか辛い目に合うのなら、気持ちに余裕があるうちに実践した方が良いかと思いますが・・・・

数寄屋橋公園は「太陽の塔」で美しく輝いています

 東京・銀座の数寄屋橋交差点そばの公園に岡本太郎さんの「太陽の塔」をモチーフにしたオブジェがありました。夕闇に染まる青い空と原色のライティングに包まれ、目を奪われました。数寄屋橋公園といえば、かつて汚いイメージしかありませんでした。公衆トイレもとても清潔で気持ちよく使えます。「芸術は爆発だあ」と論理の飛躍を恐れずに発想転換できるのが日本です。資源小国の汚名も洗い流しましょう。

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