日本車は電子技術で対抗

半導体の不思議 経済安保で本来の強さは蘇るのか 89年前の記事が再び「嗤う」

 「日米経済政策協議委員会」(経済版2プラス2)が次世代半導体で協力することで合意しました。半導体など最先端技術の開発を加速する中国の国家プロジェクトに対抗するため、日米で開発体制を再構築するのが狙いです。率直な感想は「今頃、政府が気づいても遅すぎる」。次世代半導体の開発問題は急浮上したわけではありません。中国に急追を受ける環境を作ったのは、むしろ日本が一因。経済安保を忘れ、先端技術の支援も忘れて半導体産業の衰退を放置していたのですから。100歩譲っても「経済安保」を掲げれば、過去できなかったことができるのでしょうか。

日米の経済版2+2で協力合意 中国対抗を念頭に

 経済版2プラス2が経済安全保障を念頭にまとめた行動計画のうち、半導体開発は高精細な回路設計と量産化に挑みます。日米の研究所・施設を利用して、回路線幅は2ナノ・メートル(ナノ・メートルは10億分の1メートル)レベルを開発。2025年にも生産を始める計画です。半導体の集積度は究極の域に迫っており、2021年時点で実用化のメドがついているのは5ナノレベルですから、2ナノは半分以下。量産化のハードルはかなり高く、半導体の最先端技術をリードしてきた日米が共同開発するテーマとしても最難関です。

 半導体は1980年代から国家経済の活力源となる「産業のコメ」と呼ばれ、車やスマートフォンなどの数えきれない分野で使われています。昨年から顕在化した半導体不足は自動車各社を減産を強いる窮地に追い込み、納車まで1年以上かかる事例が増え、受注を停止した車種も現れたほど。軍事兵器でもドローンやミサイルなどの的中精度を左右する重要部品となり、半導体の技術力と生産体制をどう守り、囲い込むかが経済、軍事両面の安全保障戦略となってきました。

 では、半導体を巡る産業政策はどうだったのか。残念ながら、あちこちで落とし穴に嵌る歴史でした。日本の半導体は1980年代に世界シェアの過半を握り、エレクトロニクス産業の頂点に立った時期もありました。日米貿易戦争に巻き込まれた半導体産業は身動きが取れなくなり、国際競争力を失います。東芝のフラッシュメモリーはじめ最先端の半導体生産技術は堅持しましたが、半導体メモリー分野は韓国のサムスン電子に追い抜かれた後、受託生産に特化して生産コストを抑える台湾メーカーに圧倒され、現在は中国の国家プロジェクトに脅かされています。

日本の産業政策は半導体、液晶で不発

 結論は、日本の産業政策は戦略ミスの連続でした。半導体の競争力回復に向けて国家プロジェクト「日の丸半導体メーカー」構想も浮上しましたが、不発に終わります。半導体以外をみても、液晶パネルでも繰り返されます。シャープなどが築いた液晶は韓国メーカーの生産競争に敗れ、台湾、中国はコスト競争力でシェアを奪い取ります。

 今回の2プラス2で開発テーマに選ばれたナノレベルの高精細回路の開発はどうでしょう。広島を本拠地にしたエルピーダ・メモリーは高精細回路の設計・生産でサムスン電子を上回っていましたが、資金力で打ちのめされます。エルピーダが経営破綻する時の日本政府の対応はどうでしょうか。待っていたのは経営破綻です。エルピーダ同様、日本の半導体メーカーが結集して設立したルネサンスエレクトロニクスは巨額赤字とリストラを繰り返し、いつ経営破綻するのかと心配されましたが、ようやく息を吹き返したところです。とても国家プロジェクトの成功とはいえません。トヨタ自動車やデンソーなどの支援が底支えしました。

続きを読む
1 / 2

関連記事一覧