日本車は電子技術で対抗

半導体の不思議 経済安保で本来の強さは蘇るのか 89年前の記事が再び「嗤う」

エルピーダを救済できなかった日本政府が経済安保なら再建できるのか

 半導体は産業のコメと呼ばれたぐらいですから、日本政府はこれまでも本気で半導体産業の再建を模索したはず。当時は経済安保の発想がなかったでしょうが・・・。

 実は半導体が韓国、台湾、中国に圧倒されているといってもそれは生産の後工程の部分です。半導体の生産は前工程と後工程に分かれており、後工程はシリコンウエハーから半導体チップを生産する工程です。素材のウエハーへの成形など前工程、さらに後工程に必要な製造装置は日本や欧米が依然、高い成果シェアを握っています。この前工程や製造装置を抑えている限り、世界の半導体が中国に支配される構図にはなりません。

 本気で半導体による経済安保を考えるなら、日本や欧米が握る中核となる製造技術をどう守るのか。日本企業が中国に輸出することを禁止するのか。禁止した場合、その経営補償はどうするのか。日米政府の本気度を占う試金石は次々と指摘されるはずです。しかも、半導体の開発技術は日進月歩ではなく秒進日歩の世界です。スピードの桁数が違います。ナノレベルの競争の次のステージには、量子コンピューター含めて総合的な科学政策が必要です。

 半導体が経済安保に組み込まれることは、日本の電機産業が軍事産業として組み込まれる意味なのでしょうか。この議論も必要です。中国の追い上げがきっかけで日米協力が進んだ最先端の半導体開発はここ40年間を振り返れば、別に経済安保の建て付けがなくても重要な産業であることがわかります。安保を持ち出す必要もないのです。むしろ安保を持ち出したからといって、半導体の競争力をもちか直せるのかどうか。急追する中国の実力が日本、欧米とどこまで拮抗しているのか判明していないので明解に判断できませんが、今回の日米協力が半導体復権が直結するのか疑問は残ります。

桐生悠々の「関東防空大演習を嗤う」が警鐘した日本の脆弱さ

 第2次世界大戦前の89年前、ジャーナリストの桐生悠々さんが「関東防空大演習を嗤う」と題した新聞記事で日本の防空体制の不備を指摘しました。桐生悠々は木造などが密集する日本の都市構造を踏まえて防空体制の脆弱性を指摘するとともに、関東が空襲に合う時点ですでに勝てないと指摘しています。それは戦争が始まり、不幸にも現実となりました。

 半導体と経済安保も同じです。冷静に考えれば、安全保障の脅威が現れなくても半導体産業の復権に力を入れなければいけなかったのです。反省すべきは手にした成功を失い続けた半導体の歴史を知りながら、そして日本の産業政策の不甲斐なさを承知しながら、経済安保の視点も欠落していたことです。これからやり直しです。だからといって、半導体の復権が約束されたわけではありません。

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