下風呂温泉と放射能除染土 下北半島の過疎を改めて思い知る 

 好きな温泉が下北半島の最北端にあります。1番目は恐山の境内にある温泉。心身に滲みます。極楽か地獄か。どちらかわかりませんが、ずっと浸かっていたい泉質です。2番目は恐山を太平洋側に降りた下風呂温泉。風間浦村にあります。

  3年前までは「大湯」と「新湯」という公衆浴場があり、猛烈に熱い大湯が大好きでした。浴槽は「あつめ」と「ぬるめ」の2つ。燗酒みたいでしょ。体が冷え切った漁師さんには熱い風呂。その日の体調や気分で日本酒を飲み分ける感じですか。風呂上りの酒が恋しくなります。下北半島は豊かな漁場に面していることもあって、公衆浴場の歴史は100年以上もあったというのですから驚きです

 その「大湯」「新湯」は2020年12月、浴舎の老朽化などで村営の「海峡の湯」に統合し、100年以上の歴史に区切りをつけます。素晴らしい泉質ですが、東京など首都圏から遠く、若い人が離れる過疎化が止まらない下北半島のハンディキャップを覆すのは難問です。「大湯」「新湯」を歩いて回る楽しさが消えるのは残念ですが、地方の人口減が加速する日本の現実を受け入れるしかありません。

 その下風呂温泉が朝日新聞6月4日付「アナザーノート」で取り上げられていました。記事の内容は、東京電力の福島第一原子力発電所事故で発生した除染土の処理問題。福島県浜通り地区に駐在する記者が、除染土の処分先として風間浦村が選ばれる可能性が出てきたため、現地を訪れて青森県と福島県が交錯する記事いまとめています。なぜ風間浦村が処分先として候補になるのか。下北半島の付け根にある都市で中高生時代に過ごしたこともあり、自分地震のこれまで取材も重ねて福島県と青森県の接点について書いてみたくなりました。

朝日新聞の記事に関心がある方はこちらから参照ください。 https://ml.asahi.com/p/000004c215/20203/body/pc.html

 下北半島は原子力関連の施設が集中しています。広大な土地があり、人口密度も低い。地域経済を支えるのは農業と水産業ぐらい。地域活性化の切り札として大規模な施設誘致が昔から相次いでいます。例えば六ヶ所村。1960年代からむつ小川原開発と称した大規模な地域開発が次々と浮上し、工業団地、核燃リサイクルの再処理工場や石油備蓄基地など建設されています。再処理工場は3兆円近くも投資されていますが、まだ完成の見込みは立っていません。

 原発もあります。大間町と東通村に建設されています。むつ市では原子力船「むつ」の母港が置かれ、試験走行中の「放射線漏れ」で帰港が拒否され、さまよう事件もありました。原発関連の話題は多く、もう数ある事件の一つに過ぎません。

六ヶ所村の標識

 用地買収で飛び交った札束が多くの悲劇を生んでいます。六ヶ所村周辺で育った同級生は「むつ小川原開発」の話題になると沈黙するか、怒るかどちらかでした。普段はとてもやさしい女子生徒が「絶対に許さない」と話していた表情は忘れられません。

 原子力関連の施設建設を抱える自治体は、電源三法など国の支援策もあって財源は豊かになりますが、自力の地域活性化には苦労しています。朝日新聞の記事によると、風間浦村は隣接するむつ市や大間町と交渉した市町村合併はうまく進まず、結局は自ら活路を開く道だけが目の前に残りました。

 福島第一原発の除染土受け入れの発端は2023年3月、東奥日報の報道だそうです。風間浦村の冨岡宏村長が除染土を再利用する実証事業の受け入れを検討したいと伝えました。冨岡村長は「村の事業に活用できれば村の利益にもなるし、福島県民の応援にもなる」と認めたそうです。除染土の関連事業は、電源三法とは無縁であるため、地方財政に直接貢献するわけではありません。ただ、除染土の最終処分先が決まっていない中で受け入れを表明すれば、なにかしらの見返りがあるのではないかと期待しているのでしょうか。

 原発関連の誘致の歴史を振り返れば、見返りを期待するのは当たり前でしょう。原発が発生する高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」の最終処分地を選定する事業をみればわかりますが、候補地として手を上げただけで、自治体には国から資金が投入されます。最終的に拒否しても資金は手にできます。

 福島第一原発事故で汚染した土壌は現在は、第一原発が立地する双葉、大熊の両町にある中間貯蔵施設に置かれています。最終的には福島県外に移送して処分する方針で、この前提があるからこそ双葉、大熊の両町も中間貯蔵施設を受け入れたわけです。といっても、最終的な移送先は未定。今後決定するかどうかも見通せていません。国が福島県以外で最終処分地を本気で探す気なら、なにかしらの見返りが加わると考えてもおかしくありません。

 風間浦村は人口約1647人(5月末現在)。村のキャラクター「あんきもん」を産んだあんこうはもちろん、イカなど魚介類はとてもおいしい地域です。本当にうまいですよ。そして、素晴らしい下風呂温泉もあります。しかし、最寄りの飛行場である三沢空港から車で北上し、原発関連施設がある六ヶ所村、東通村などを抜けて到着するまで2時間以上はかかります。

 日本全国で若者が減り、人口減が進んでいるなか、自力で地域経済を立て直すには限界があります。風間浦村の苦闘は、日本の地方の現実の一つにしか過ぎません。

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