總持寺祖院、上時国家、酒蔵・・・ 惨状に言葉を失います。

 輪島市へ出向く時、可能な限り立ち寄ったのが門前町の總持寺です。金沢市から車で自動車専用道を走り、能登半島の西側へ抜けると細くて曲がりくねった道が続きます。左側は海。風が強い時は、車のフロントガラスに波しぶきがかかってきます。ワイパーで掃いても塩がフロントガラスに残ることもあるのですが、「能登に来たあ〜」と体が笑います。

總持寺で山岡鉄舟の書を見に行く

 門前町に到着し、總持寺へ。車を降りて、伽藍を一望できる場所に立つだけで気持ちは穏やかに。どんと構えた山門を抜け、境内に入ると目の前には空間がすっと広がっていきます。「ふ〜っ」と肺から息が吹き出てくる思いです。

 木造の建造物が立ち並び、広々した空間は濃い茶色一色に染まっています。自己主張する建物はありません。ゆったりと調和しているので、境内を歩き回っていても一つ一つ驚くようなこともありません。でも、手応えはあります。總持寺という空間のかたまり、三次元のキューブの中に身体を押し込む感覚に似ているかもしれません。

 そうそう、驚き、感動する逸品があります。山岡鉄舟の書です。仏殿の襖4枚に太くて大きな筆で描かれ、当時は木戸と並んで境内に向かって掲げられていました。大胆で雄大。境内の空間全体を舞台に書が駆け巡っています。その当時も、そして今も、なんて書かれているのかはわかりませんが、その書の前に立つと圧倒され最敬礼するしかありません。總持寺にいつも立ち寄りたいと思う気持ちを抑えられないのは、この山岡鉄舟の書を見たいという思いがあるからです。

總持寺祖院の仏殿の「相見の間」にある山岡鉄舟の書

 最大震度7に襲われた能登半島は、甚大な被害が広がっています。輪島市、珠洲市、穴水町、志賀町、七尾市など数え切れないほど訪れた市町村、地域が傷み、多くの方が死傷されています。家屋や道路の損害で避難し、いつもの違う生活に耐えている方も多くいらっしゃいます。もう昔ですが新聞記者駆け出しの頃、金沢市で暮らした3年間、能登を車で走り回っただけに、テレビを通して伝えられる映像や情報に接すると言葉がありません。

 多少の被害は避けられないと予想していましたが、總持寺の風景には「あぁ〜」と声が出てしまいました。かつての曹洞宗の大本山、「總持寺祖院」は、回廊が基礎から崩れ落ちています。僧堂は屋根から瓦が落ち、お地蔵様が倒れています。境内のあまりの被害に言葉を失います。

 2007年の能登半島地震でも大きな被害を受け、ようやく修復したばかりです。NHKニュースは「14年間、苦労を重ねてようやく形になったというところでまた被害が出てしまいました。『耐震化したのになぜ』と思うところもありますし、言葉になりません。今は復興のことは考えられませんが、やるべきことを一つ一つやるしかありません」(副監院の高島弘成さん)と伝えていましたが、テレビ画面を見ながら涙が出ました。

能登の繁栄を象徴する上時国家

 NHKニュースは、總持寺と同じ輪島市の国の重要文化財「上時国家住宅」の被害も伝えていました。建物は屋根から押しつぶされたようになっており、あの豪壮な構えは見る影もありません。「上時国家住宅」は、江戸時代の豪農の暮らしぶりを伝える建物として輪島観光でかならずといって良いほど立ち寄る名所です。

 加賀百万石を誇りとする金沢市は、「能登は貧しいから」と話していましたが、能登半島を北上しても瓦葺きの家が絶えない町並みや集落をみて、「青森県下北半島と全然違う。とても豊か」と驚いたものです。上時国家住宅、すぐそばの時国家住宅は江戸時代から継承する能登の繁栄を象徴していると感じたほどです。

 能登にはおいしい酒蔵さんもたくさんあります。日本酒のおいしさ、奥深さを教えてくれたのが石川県の酒蔵さんです。その一つが「宗玄」。まだ20歳代の頃、金沢市の居酒屋さんでお燗を頼んだら、宗玄が出てきました。一口飲んだら、うまいというより甘い。お店の主人に「甘いねえ」と話したら、「魚がうまい土地の酒は旨口の酒が合うんだ。辛口が人気の東京とは違う」と教えてくれました。白木のカウンターにこぼした宗玄の一滴はどろっ固まっており、指先で押したら指紋が残ります。日本酒とは濃厚な「米汁」なのだと諭されました。

日本酒のおいしさは能登の酒で知る

 宗玄酒造は1月13日、ホームページに本年度の生産中止を告知しています。

ご報告が遅れ、ご心配をおかけし大変申し訳ございませんでした。お詫び申し上げます。

年始のタイミングでの被災ですが、パートタイマーを含む従業員全員の無事を確認いたしました。従業員宅の損壊や蔵のダメージにて本年度の醸造を中止せざるを得ない状況ですが、既に復興に向けて動き出しております。生き残りの製品を限定数にはなりますが、出来るだけ早く皆様のお手元に届けられますよう最善を尽くしております。

 NHKニュースによると、輪島市、珠洲市などの奥能登地域にはあわせて11の酒造会社があり、10の会社は酒蔵や店舗が被災して製造ができなくなっているそうです。

 能登は多くの杜氏を輩出しているだけに、被害は能登だけにとどまらないようです。石川県の加賀地域にも全国的に知られる酒蔵が多いですが、「能登杜氏が例年通りに来てくれるかどうかわからない」と酒造の先行きに不安を抱いていると聞きました。復興を願い、これからもずっと応援し続けたいと思います。

写真は總持寺祖院のホームページから引用しました。

 

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