• HOME
  • 記事
  • Net-ZERO economy
  • ポカラ 激流を吸い込む滝 村上春樹の「世界の終わり」の脱出口に向かう ナマステ④
水浴びする水牛

ポカラ 激流を吸い込む滝 村上春樹の「世界の終わり」の脱出口に向かう ナマステ④

*  *  *  *  *  

元プロレスラーの大男、ビデオデッキ、革ジャン、ブルーワーカーにデジャブ

「世界の終わり」で大男とちびが主人公のアパートの部屋を訪れて、家財道具全てを破壊するシーンがあります。人物設定やセリフのやり取りなど、米国のB級映画によく見かけるような振り付けがされており、とても好きな場面です。きっとクエンティン・タランティーノなら必ずオマージュしたことがあるはず。好き理由は単純。自分の過去の経験を鏡写しされるような場面が映し出されるからです。

まずプロレスラー上がりの大男。学生時代、バイトしていた中華料理店で元キックボクサーの男性と仲良くなりました。身長は170センチぐらいで肩から太腿まで筋肉は盛り上がり、目つきは獣のように鋭い。昨日まである組の親分の用心棒をしていたそうです。

「自分としては故郷に帰って普通の生活をしたいのだが、堅気の普通の生活に慣れるためにこの店で働き、人気の餃子の調理法を覚えたい」。とても真剣に働くのです。でも釣り銭は間違うし、お客さんと話すのが得意じゃないせいか、ちょっとしたことでも揉めてしまいます。本人は我慢しているつもりでも、目つきの鋭さが半端じゃないのでお客さんが怖がってしまいます。

彼はとても悩みので一緒に何度もお酒を飲みにいくのですが、飲んでいる先でなぜか喧嘩好きの客が絡んでくるのです。「類は友を呼ぶ」とはこういうことなんでしょうか。

 

キックボクシングの日本ランキングにも名を連ねた彼が殴ると事件になってしまいます。お店のママと二人がかりで羽交い締めするのですが、ちょっとでも腕か足が自由になると喧嘩をけしかけた客は飛んでいくのです。「プロのスピードと力」を間近に見ると、素人は喧嘩してはいけないことを思い知ります。

大男が破壊しています雑貨や服、ウイスキーもほぼ同じものを持っていました。ビデオデッキ、襟に毛がついたボマータイプの革ジャン、ブルックス・ブラザーのスーツ、みんな同じ。

ウイスキーはカティーサーク、I・Wハーパー、シーヴァス・リーガル、バーボンもワイルド・ターキー、ジャックダニエルのみならずフォーローゼズも。お馴染みのアルコールばかりです。背面押しのブルワーカーが出てきて大笑いです。通販で売りに出されていたブルワーカーは胡散臭いと思いながらも、金がないにもかかわらず友人から中古品を安く買ったのでした。お金があろうがなかろうが、熱心に良いよと言われれば買っちゃうのが人間の性なのでしょう。

そしてすべてが破壊されていきます。気持ち良い。さっきまで目の前にあった現実が、目の前から消え去ります。本当にあったのかどうかがだんだんわからなくなります。頼りになるのは記憶だけ。

でも、激流に飲み込まれ、滝の底へ吸い込まれたら、なにも無かったのと同じです。滝つぼの中は真っ暗です。でも、まだ滝が吸い込まれている先は見ていません。もうちょっと歩けば、滝が見えてくるはずです。歩き続けます。

 

関連記事一覧

PAGE TOP