GX債は暗号資産?23年度初めて発行、でも前年度補正の1・1兆円が加わる不思議

 「GX経済移行債」が2023年度、1・6兆円分発行されることになりました。12月21日、西村康稔経済産業相が23年度当初予算案の鈴木俊一財務相との閣僚折衝後、発表しました。GX債は23年度当初予算で新しい国債として発行することが決まっており、まず5000億円程度を予定していました。蓋を開けたら、なんと22年度第2次補正で盛り込まれた脱炭素関連の1・1兆円が加わり、合計1・6兆円と3倍に膨らみます。GX債は20兆円分の発行を計画していますから、この手法を使えば脱炭素の名目がつけば何でも後付けできます。不思議です。国債は資金の用途や事業の決定過程が誰にでも見える透明性が命。このやり方ならGX債は暗号資産のビットコインと同様に話題先行で尻すぼみに終わりませんか。素朴な疑問です。

22年度補正が突然、後付け

 改めてですが、GXはグリーン・トラスフォーメーションの略称で、気候変動を抑制するカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを意味します。カーボンニュートラルを手にするためには、政府は今後10年間で150兆円の投資が必要と試算しており、このうち20兆円を新たに創設するGX経済移行債で資金を調達することが決まっていました。

 21日に公表した23年度当初予算案によると、GX債で脱炭素技術の実証や新技術への支援、次世代革新炉の研究開発支援などに4900億円を投じるそうです。そして22年度補正で決まった脱炭素関連の1・1兆円が追加されることになりました。今後10年間で20兆円を発行する予定ですから、23年度当初分は1割弱の比率に収まっているので、今後も追加発行されるのでしょう。

GXは移行過程の透明化が重要

 GX経済への移行は大賛成です。でも、素朴な疑問は消えません。GX債は資源エネルギー庁が所管するエネルギー対策特別会計の国債として発行します。国債は日本国民に幅広く寄与する案件に使われる前提です。調達資金は燃焼してもCO2を排出しない水素やアンモニアの活用、太陽光など再生可能エネルギーの普及には欠かせない次代蓄電池の技術開発などに振り向けられると説明されています。研究成果や事業は一般家庭や幅広い産業に波及すると思いますが、脱炭素の主な事業は電力などエネルギー産業、素材など特定の産業に限られています。

 日本の産業構造をGXへ転換することは、日本経済にとって最重要テーマであることはわかりますが、GX債の対象事業は企業の収益に直結する場合が多く、国の予算としてどう使うのかを議論し、しっかりした精査を経て決定する透明なプロセスが求められます。だからこそGX債の償還はエネルギー産業が深く関わるのでしょう。2050年までに償還する計画で、財源として化石燃料を輸入している電力会社や石油元売り会社などから徴収する「賦課金」や排出権取引制度を通じて賄う方向です。

 しかし、今回のように22年度補正予算が後からポ〜ンとGX債に放り込まれると、GX債によって調達した資金用途との整合などは見えないまま。当然、GX債の資金の使い道などさまざまな支出管理などを精査、検証を徹底するわけです。

 ところが、資金の使い道が国民の声をしっかりと反映しているのか不安です。すでに開催されている政府のGX実行会議の議事録をみると、出席者の大半が原子力発電の推進を唱えています。再生可能エネルギーの普及についても言及されていますが、ほぼ原発推進の合唱です。原発は資源小国の日本にとって脱炭素を進めるうえで欠くことができない電源ではあります。しかし、大災害時の安全性の問題はもちろん、核燃料の処理など長年の懸案が解決する目処が立っていません。100万キロワット級の大規模な原発から小型化した次世代の原発などは2050年に間に合うプロジェクトではありません。

GX債の資金用途は熱い議論を経て

 ターゲットを2050年のカーボンニュートラル実現に置くなら、原発を主軸にした従来の国策に捉われず、GX債で調達する20兆円をどう有効に使うかの議論を熱くすべきです。たとえ予算編成、執行で当たり前のことだとあったとしても、何の経緯説明のないまま1・1兆円をGX債に組み込む政府の判断は、欠いてはいけない重要な手順を無視しているとしか思えません。2050年まであと27年しかないから手順を省きます、は通りません。

 米国で暗号資産の会社が兆円単位を一瞬のうちに煙のよう消してしまった事件がありました。GX債はCO2を排出しない社会へ移行する目的で発行されます。まさか20兆円が煙になるようなことはないでしょうが、22年度補正予算の後付けは注視し続ける必要があると肝に銘じた出来事です。。

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