株式市場 日銀のETF買いの「上げ底分」剥げても、下落しない実力を取り戻したのか

 東京証券株式市場は、独り立ちできるのでしょうか。「何を今さら」と思いますか。それでも、そんな素朴な疑問が浮かんでは消えます。

日銀のETF買いが消える日

 日経平均は7月3日の終値で3万3753円をつけ、1990年3月以来33年ぶりの高値を更新しました。最近は「33年ぶり」の数字が続きます。3万8957円の過去最高値を記録した1989年12月末以降、バブル経済の崩壊とともに低迷期が続き、ようやく3万円台が定席となりました。ただ、2023年の年初来高値を記録した後、米国債の信用リスク、日米金利差の拡大などを材料に先行きに対する警戒感が広がり、3万2000〜3000円をウロウロしています。金融のプロではありませんので、先行きを読むつもりも力もありませんが、どうしても東証の実力に疑問符が付いて離れません。

 8月初め、ちょっとした異変を覚えました。日経平均が1300円も下落しました。株価が急落すると、日本銀行のETF(上場投資信託)買いが入り株価を買い支えるのがここ10年間の”お約束”でした。ところが、日銀は動きませんでした。2010年、当時の白川総裁が金融緩和の一環として開始したETF買いは、黒田総裁が就任してからは積極的に活用され、異次元緩和の象徴のように株式市場を下支えしました。

日経平均の2割は上げ底?

 日経平均に上昇力が弱く、悪材料で大幅下落した場合でも日銀がETF買いに入ると、株価は蘇ります。午前中の相場が下落基調の日は、午後からは「日銀が買いに入る」という根拠で機関投資家、個人投資家を問わず買いが増え、結果的に日経平均が元に戻る。こうした営業日を数えきれないほど見たものです。市場関係者の間では、日経平均の2、3割は日銀の買い支えで押し上げられているという噂も広がり、株式市場の懸念材料として「上げ底分がいつ剥がれるのか」と当時は指摘されていました。

 そうりゃそうです。実際は本来なら買いが入らない企業業績、経済状況であるにもかかわらず、日銀が支えるという安心感だけで株が買われるのは、資本主義の原理から外れています。しかも、日銀は市場の期待に応えるかのようにETF買いに入ります。安心感はさらに確実な安心感に上書きされるわけです。まるで元金保証の株式投資のようでした。

日銀はETFの8割を保有、筆頭株主にも

 その結果、日銀の保有残高は国内ETF市場全体の約80%を占め、国内株式市場の約7%にまで膨らみ、優良企業の筆頭株主は日銀が占める異様な事態に。ETF保有残高は2023年6月末の時価で60兆円を突破し、含み益は24兆円を超えたそうです。不謹慎ですが、日銀を機関投資家として捉えれば、結果だけを見る限り大成功です。もっとも、市場操作しながら投資するのですから、投資家と名乗った瞬間にインサイダー取引でアウトでしょう。どうみても奇妙な構図ですし、このまま残影として眺めているわけにはいきません。

 最近の3万円台乗せの株式市場は、世界的な投資家のバフェット氏の日本買いを追うように戻ってきた外国人買いが押し上げ要因です。もちろん、コロナ禍を乗り越えた日本企業の業績回復や先行きの明るさも大きな下支え要因です。ただ、33年ぶりの水準に手が届く上昇力はやはり外国人投資家の勢いに乗じた株式投資意欲の回復にあります。日本経済の強さの回復を反映した日経平均と呼ぶには時期尚早でしょう。

 日銀の金融緩和政策は植田総裁就任後、異次元緩和を修正する動きが始まっており、今回の株価急落時でもETF買いが入らなかったこともその表れかもしれません。市場関係者には、かつての上げ底分はすでに吸収され、株価に織り込まれたという見方もありますから、そう心配することもないのかもしれません。

果たして上げ底分は織り込まれたのか

 いつかは異次元緩和の出口戦略が始まります。買いまくったETFを売却するのは間違いありません。「お金には色がない」という格言がありますが、株式市場を形成する資金構造は明確にはわかりません。もし、日銀のETF買いで支えた「上げ底」がまだ残っていたら、日銀がETFを売却し始めた時の株式市場はどう反応するのでしょうか。とても心配ですが、あまり想像したくありません。

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