29年前のタヒチ暴動が蘇る ニューカレドニアで騒乱拡大 対岸の火事ではない

 30年近く前に目撃した暴動の風景が繰り返される悲劇。長い年月を経ても植民地支配の現実は変わらない。とても残念です。

 南太平洋のフランス領であるニューカレドニアで、地方選挙の投票権を拡大する仏憲法改正案に反対する独立派住民のデモが暴動に発展、憲兵2人を含む6人が死亡し、数百人が負傷する大惨事となっています。海外から伝わるニューカレドニアの首都ヌーメアでは店舗が破壊され、あちこちで放火と思われる火事が起こっています。略奪も横行しており、破壊と盗難によって目を覆うしかない店内を見て呆然とする店主の姿が映し出されていました。美しい街ヌーメアを訪れたことがありますが、あまりの変わりように言葉がありません。

フランス植民地支配が引き金

 1995年、フランス領ポリネシアのタヒチ島で目の当たりにした暴動の風景がそのまま蘇りました。暴動の根源は同じです。政治経済を支配するフランスは、植民支配する以前から生活している先住民の自治・諸権利を認め、独立した政府を樹立させて欲しい。30年近くの歳月が過ぎても、南太平洋のフランス領の島々で独立運動が燻っている理由です。

 フランスのマクロン大統領は5月23日、ニューカレドニアを訪れ、「改革を強制的に進めない」と表明し、ニューカレドニアの将来について独立派を交えて話し合いを重ね、合意は住民投票で決定する方向を示しました。

 ニューカレドニアの人口は約27万人で、そのうち40%ほどが先住民のカナックです。欧州系住民はフランスを中心に24%程度。タヒチ島などが観光産業に依存している構図とは違い、主要産業は世界でも有数の産出量と埋蔵量を誇るニッケルの資源開発です。ニッケルは充電式のニッケル電池など身近な製品に使われ、日本が輸入するニッケルの50%ほどはニューカレドニア産です。日本のニュース番組では真っ青に澄んだ空と海からなる美しい自然から「天国に一番近い島」とすぐに説明されますが、日本経済を支える島としてその動向から目を離すわけにはいきません。

独立の投票はいずれも秘訣

 暴動の引き金となったニューカレドニアの地方選挙の投票権は、1998年以前から住む住民に認められていましたが、憲法改正案は10年以上居住する住民に投票権を認めます。欧州系の投票者数が増えるため、先住民カナックを中心とする独立派は地方選挙や住民投票で劣勢に回ることを心配しています。

 ニューカレドニアでは独立するかの投票が繰り返されています。2018年に初めて実施され、反対が56%、20年に2回目が実施されて反対が53%を占めています。フランス本国に比べ先住民の権利や経済などで格差があるのは事実ですが、島の経済がフランスに依存しているのも事実です。投票結果を欧州系移民、先住民という対立構図だけで説明できない面もあります。

 直近では2021年12月12日、独立を問う投票が行われ、独立反対が多数を占めました。反対票は全体の96%以上を占め、賛成票は3%超。ただ、独立派がコロナ禍で運動できなかったこともあり、投票のボイコットを呼びかけてしました。実際に投票したのは有権者約18万人のうち約8万人。投票率は44%程度です。憲法改正案では欧州系住民の投票権が増える可能性が高いため、もし次に独立を問う選挙か住民投票が開催された場合、独立派が不利な結果となる公算もあります。

日本に重要なニッケルの輸入先

 ニューカレドニアは資源開発国だけに、一人あたりのGDPはニュージーランドを上回るなど統計上は豊かに見えます。しかし、鉱山をはじめ土地所有権など経済活動の重要な権益はフランス政府やフランス本国の企業が握っており、経済・社会の構図はフランス人を頂点とするヒエラルキーが形成されています。

 29年前の1995年夏、タヒチ島では独立運動が巻き起こっていました。シラク大統領がタヒチ島に近いムルロア環礁などで核実験を再開すると発表。核実験再開をきっかけに世界から抗議する多くの人々が集まり、以前から燻っていた仏領からの独立運動が再び過熱しました。抗議運動はフランス警察や軍の警備と衝突を繰り返し、暴動に発展。今回のヌーメアと同様に、パペーテの繁華街は放火され、空港も火災が発生。大混乱しました。炎と煙を高々と舞い上げて燃え盛る空港周辺で抗議運動を取材していたら、フランス警察がマシンガンから撃ち放つプラスチック弾、催涙弾をまともに受ける貴重な経験もしました。緊張していると意外と痛くないものです。

南太平洋の現実を直視して連携拡充を

 暴動の背景には独立運動、核実験反対だけではありませんでした。タヒチ島は南太平洋の楽園の象徴と受け止められてますが、島の実生活はフランス系住民と先住民ポリネシアンとの間に大きな格差があり、現実はとても楽園といえるものではありません。タヒチ島出身のフランス系白人が吐き捨てるように教えてくれました。「タヒチのフランス人でさえパリから人間として認められていない。現地のポリネシア系の人々はそれ以下」。日常の不安のはけ口として抗議運動が暴動に発展したことも見逃すなと指摘していました。

 日本は、中国による南太平洋の軍事的影響力の拡大を受けて、島嶼国との関係強化に再び力を入れています。7月にはニューカレドニア、仏領ポリネシアンを含め日本など19カ国の首脳が参加する太平洋・島サミットが東京で開催します。政府レベルだけでなく日常生活の視点からもニューカレドニア、南太平洋の島嶼国の現実について考える機会が増えて欲しいです。

◆ 写真は1995年のタヒチ・パペーテでの騒乱で放火された高級ブランド店

関連記事一覧