before and after

富裕層は 日本からの逃避するのか? それとも地球からの逃避するのか?

「お金持ちはシンガポールへ移住するよ」。こんな話を最近、読んだり耳にしたりします。

日本経済は衰弱に向かってます

日本の現況を考えたら、シンガポールかオーストラリアへ移住したい気持ちはわかります。まず経済力が衰弱しているのは間違いない。GDPは足踏み状態が続いており、日本経済からバラ色の美しい将来を思い描くのは難しいですよね。一人当たりの年収も伸び悩み、韓国にも抜かれたと話題になっています。数字の中身をもっと精査した方が良いんじゃないかなとアドバイスしたいのですが、とにかく韓国に抜かれるのがショックな人がいるようです。派遣社員など非正規雇用の比率も雇用全体の4割に達しており、将来の年金など社会保障への不安が高まっています。日本の社会構造が悲鳴を上げて軋んでいることを多くの人が体感しています。

日本をリードする政治はどうなんでしょう。「成長と分配」を掲げて2021年秋に岸田政権が誕生したのは冷静に見ても自然の成り行きだったのかもしれません。しかし、第二次大戦後、敗戦から復興し、高度成長を続けた成功体験を忘れずに何度も何度も反芻して、すでに遠い過去の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の酔いから醒めない世論があるのも事実です。目の前の経済構造を抜本的に改革しなければいけない現実に目を逸らし、伝家の宝刀のように昭和から継承する経済政策を振りかざしては、結局これまでとさほど代わり映えしない現状維持の道を歩んでいるのが今の日本です。

それでは現実を直視するためにはどうすれば良いのか。一つは「日本が豊かになる」という考え方から糸口が見つけられると思っています。例えば「成長と分配」の目玉として岸田首相が表明した富裕層の金融所得への課税拡充。首相が考えを口にした途端、強い反発を受けて姿を消してしまいました。その後、「新しい資本主義」は分配を実現するカードとして「賃上げ」に焦点を移し、富裕層と分配のテーマは宙ぶらりんになってしまった印象です。賃上げが経済成長の分配に直結するかどうかは以前に書いています。今回のテーマはあえて「富裕層」に絞ります。

富裕層の定義は金融資産1億円以上など様々ですが、年収数千万円以上を得ている高額所得者の不満は理解できます。所得税など公的な負担で年収の4割以上は国や自治体などへ納めるため、手取りは思ったより多くありません。かつて「清貧」が人生の美学として尊ばれた日本にあって、株式などの投資は今でもお金持ちの象徴と受け止められ、多くの財産形成は預貯金が大半を占めています。株式や不動産など資産のポートフォリオを組んで財産を増やす欧米とはかなり違います。

まして経営者ら高額所得者は自らの年収を口にすることはありません。米国のように年収100億円を超える経営者があちこちにいるのは異常だと思いますが、経営責任を負っている社長らがそれなりの高収入を得るのは当然です。だからこそ、所得税などに比べて節税効果がある金融関連の投資に対し資産に余裕がある富裕層がマネーを振り向けるのもわかります。一方、源泉徴収で所得をほぼ100%把握されてしまっている大半の給与所得者から見たら、金融投資などを通じて実質的な節税を謳歌できる超富裕層に課税拡大が及ぶのは当然だと考えるのも納得できます。

ましてシンガポールは日本に比べて規制や諸税が軽減されています。移住すれば手取り年収が増えるのは確実でしょう。世界の著名投資家はじめ、日本人でも企業買収などで派手な買収を演じる村上ファンドの主宰者がシンガポールに住んでいます。この一事だけでシンガポールに移住するメリットの大きさがわかるはずです。横道に逸れますが、経営者の高額報酬隠しなどで経営責任を問われ、日本から逃亡したカルロス・ゴーンの立場から見れば、「欧米の経営者は自分よりもっともらっているのに、なんでこんな目に会うのか」という思いでしょう。ゴーンも可哀想といえば可哀想です。もっとも、事件に発展した背景にはもっと複雑な事象が絡んでいますが、それについては別の機会、後日詳細に書きます。

それよりも、もっと凄い富裕層はシンガポールではあきたらないのでしょうね。アマゾンやZOZOの創業者は宇宙旅行を楽しんでいますし、テスラ創業者のイーロン・マスクさんは火星への移住を目指して宇宙事業に注力しています。お金の使い方は地球外へ向かうのでしょう。

お金持ちになる方程式が変わる

ただ、ここで見落としていけないのは「お金持ちになる方程式」が変わってきていることです。話は遡りますが、資本主義の前段階ともいえる重商主義の代表である大英帝国。海賊船を軍艦と呼んで、スペインに勝利して世界の海を制覇しました。大西洋とインド洋の主導権を握り、そして太平洋へ進出しながら各地域を植民地化。土地と資源と人間を略奪しながら、世界中から巨万の富をかき集めのです。それを見たアダム・スミスはそんなことをするよりももっと経済をうまく拡大できる方法があると考え、「国富論」を発表しました。アダムスミスは資本主義にとって最も大事なのは道徳、倫理だと説いています。

その資本主義は蒸気機関の発明で勃発した産業革命を跳躍台に経済成長を爆発させます。欧州から米国へ移植された資本主義は、米国の大陸開拓を舞台にエレクトロニクス、自動車、石油・石炭などエネルギーの主力産業を拡大させ、第二次世界大戦後の世界経済を握ります。この時代のマネーを生み出す源泉は製造業です。日本はその製造業をコピーして米国に追いつこうとしたわけです。

そして現在は人間の脳がキーアイテムです。数多くの部品を構成することで高い付加価値を生み出す製造業から、才能ある人間が生み出す独創的なアイデアが仮想世界を創り上げます。FacebookやTwitterなど国境を飛び越えた地球を一つにするインフラが多くのビジネスを生み出し、多くの金持ちがこのインフラにぶら下がってマネーを増やしています。今の主導権はGAFAにあります。

こう俯瞰すると、超富裕層にも21世紀のマネーを生み出すインラフを想像する方程式を編み出した経営者と、このインフラにぶら下がってお金持ちになった経営者の二種類に分類できそうです。「日本からシンガポールに移住したい」と話すお金持ちは、インフラにぶら下がった超富裕層の一部に思えます。

それでは次世代の金持ちの方程式はなんでしょうか。産業革命以来の資本主義が存続できるかを問われている今、お金持ちの方程式がガラリと変わるはずです。キーワードはやはり「地球」でしょう。産業革命からCO2を排出する産業が世界経済を牽引してきましたが、CO2排出はもう事実上、許されません。世界経済はカーボニュートラルを実現するため、ネット・ゼロ・エコノミーに移住するしかありません。日本を離れてシンガポールに移住しても、そのシンガポールそのものが過去の成功体験を捨て、違う生活基盤を再創造する勇気を問われるのです。

豊かさの定義の変化、日本を変えるヒントが潜む

「豊かになる」との意味合いも変わるはずです。お金をたくさん持っていることが豊かなのかどうか疑問です。誤解しないでください。清貧でも幸せであればと言いたいわけではありません。豊かな生活と満足できる基準が変わってしまうという表現が適切かと思います。「節税できるから」「起業できるから」といった理由は雲散霧消しているかもしれません。あと10年間もすれば、タックスヘイブンとと呼ばれる都市や国は残っているのでしょうか。日本が将来も住んでいたい国としてあり続けるためのヒントはここにあるのだと思います。今からも遅くはありません。「豊かな国とは何か」「その国に住む国民の幸せとは何か」を政府も国民も議論して探る時だと思います。宇宙からお金をばら撒いても、一瞬の幸せにすぎません。議論に時間はかかりますが。家族がもうちょっと長く幸せを楽しめる国になってほしいと思い、その解答を探ってみたいと思います。贅沢ですか?

お金持ちは月か火星へ

地球に住んでいる限り、お金持ちの人とそうじゃない人の暮らしにそう違いはない世界に向かう気がします。逆に言えば、もし何も変わらなければ、地球に人間はそう長くは住んでいられないでしょう。それではシンガポールの次は月か火星か。

「お金持ちは宇宙に移住します」というのが次の流行り言葉になるのでしょうね。

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