首都防衛?!ゴジラが襲来する前に破壊された?東京都知事選

 5月初めの夜、西新宿の東京都庁に向かいました。都庁ビルの壁面に映写するプロジェクション・マップを見るためです。コンテンツは都庁を襲撃したゴジラとの闘いです。高さ100メートルのモンスターが実物大で都庁に映し出されるだけに、迫力は満点。周辺には1000人を超える観客が集まっていました。なぜゴジラが西新宿に出没するのか。生誕70周年を迎えるゴジラの映画では新宿が何度も舞台になっているのです。2015年には新宿歌舞伎町に全高12メートルのゴジラヘッドがビル屋上に配置され、ゴジラは新宿の観光大使も任命されています。狙いは当たり、ゴジラヘッド目当てにゴジラ人気で海外からの観光客が集まっています。

都庁ビルでゴジラの映像ショー

ゴジラヘッド

 ゴジラが襲来したら、東京はどうなるのか。あり得ない疑問が浮かびましたが、なんとゴジラが襲いかかる前に東京は破壊されてしまいそうです。東京都知事選です。2024年7月7日投開票の都知事選には56人も立候補。現職のほか、国会議員、タレントら多彩な顔ぶれが集まり、なかにはほとんどヌードのポスターを貼ったり、寄付者を募って「ポスター掲示板をジャックする」と宣言する政党もあって滅茶苦茶感が溢れています。当選などどうで良いのです。立候補することで知名度が高まり、SNSなどでバズれば今後の活動にプラスと考えているのでしょうか。

 こんな知事選では首都のみならず日本の民主主義は崩壊すると心配していたら、3選出馬を表明した小池百合子都知事から驚きの言葉が出てきました。

小池都知事は「首都防衛」

「首都防衛」。令和の今、この4文字を目にするとは思いもしませんでした。小池百合子都知事は自らの政策の柱を「世界一の都市・東京を確立する。キーワードは『首都防衛』。都民の命と暮らしを守り、経済を発展させていく」と説明します。首都を防衛する場合、対外的な脅威を想定するはずですが、政策の中身は都民の生活に関することがほとんど。違和感ありありです。東京を世界一の都市にする趣旨の政策もありますが、それなら守るどころか、世界に向かって攻めていく発想でしょう。

 「3つのシティ」というタイトルで、セーフシティ、ダイバーシティ、スマートシティを目指すというものあります。ダイバシティはどうしても「市」を意味するシティじゃないと思うのですが、以前から掲げている政策ですから変えられないのでしょう。小池知事はアラビア語については疑問の声がありますが、英語は得意の小池知事。ちょっと英語がおかしいことはわかっているはずです。元々、わかりやすいタイトルを掲げて、多くの注目を浴びるのが大好きな人物ですから政策の中身などに拘らず、名前を知ってもらえれば良いと割り切っているのでしょう。

都知事選の勝負は知名度

 候補者が乱立する都知事選の根源には青島幸男知事以来、進んでいる人気投票化があります。テレビなどで高い知名度を持つ青島氏はポスターを貼る以外、主だった選挙活動はしませんでしたが、1995年の都知事選に当選しました。同じ年の大阪府知事選でも横山ノック氏が当選。政策の中身が議論されるよりも、知名度の高さが当選のカギを握るようになりました。

 国会議員から都知事に転身したのは石原慎太郎氏でした。「日本の政治を変える流れは東京から始まる」。こんな発想に立った言動が始まります。石原氏とはご縁があって、運輸相の頃から取材でお世話になり、運良く都知事の時も遭遇しました。都政には関心がなく側近の副知事に任せっきり。実現性よりもパフォーマンス第一でしたから、東京五輪の誘致、尖閣諸島の購入計画などをぶち上げた時も驚きはしませんでした。

 ここからでしょう。東京都知事は、日本、世界をアッと言わせる政策をぶち上げ、衆目を集めるのが仕事と勘違いする流れが生まれたのは。政策の実効性よりも都民の話題になればOK。「やっている感」を最優先。機を見るに敏な小池都知事の代になっても続いています。

ゴジラの襲来は民主主義の危機の予兆

 ゴジラのプロジェクションマップもその一つ。制作関連予算は、この2年間で16億5000万円。都庁以外での映像展開を含めれば、48億円にのぼるそうです。島根県の丸山達也知事は、ゴジラ関連の映像予算について「アンビリーバルの3乗」という表現を使い、呆れていました。東京都と島根県では予算規模が大きく違うとはいえ、高齢者・子育てなど社会福祉関連に投入すれば、住民生活がどう変わるのか想像できます。

 ゴジラが都庁を襲う日など来やしないと信じていましたが、勘違いでした。ゴジラは先取りする形で今回の都知事選の乱立の象徴として姿を現したのです。政策の中身、信頼できる人物かどうかなどを問うよりも、多くの人に知ってもらう話題性が当選するかどうかの決め手になる。東京都の民主主義の危機は、日本全体の予兆です。小池都知事が掲げた首都防衛は、本人の意図とは離れていますが、まさに正鵠を得ているのかもしれません。都知事選はしっかり見極めて投票しなければと自戒しています。

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