トランプ関税、世界経済の「奇妙な果実」ローマ帝国の没落を目撃している気分に

 トランプ米大統領は4月2日、相互関税の詳細を発表しました。すべての国に一律10%の関税を課すほか、それぞれの国が設定した関税や非関税障壁を評価し、より高い税率を上乗せします。トランプ大統領は「4月2日は米国の産業が再生した日、米国が再び豊かになりだした日として、永遠に記憶されるだろう」「米国史上最も重要な日の一つだ」と自画自賛します。

「米国は搾取されていた」

 「トランプ関税」と呼びます。世界貿易のルールを無視した身勝手な政策を捻り出した理由として「我々は搾取されていた」と説明します。被害者意識丸出しです。確かに米国の貿易統計によると、2024年の米国の貿易赤字は約1兆2000億ドル(約180兆円)と過去最大です。米国政府は相互関税などによって輸入を抑えて貿易赤字を削減。さらに高い関税率によって米国政府が手にする税収は大幅に増え、米国の財政状況は改善に向かうと強調しています。

 巨額の貿易赤字は米国の安全保障を脅かしていると主張したい気持ちはわかります。しかし、現実は巨額の貿易赤字で多大な恩恵を受けているのは米国企業であり、米国の消費者です。世界一の経済大国を支えている実力を貿易赤字の単純な足し算と引き算で測ることはできません。

 世界経済に君臨するグーグル、アップル、メタ、アマゾン、イーロン・マスクはなぜ米国に存在するのか。これらの企業に支配されている日本から見れば、「搾取されているのは我々」と言いたい。

 トランプ大統領の派手なパフォーマンスを見ていたら、2000年以上も前、当時の世界を征服したローマ帝国が没落する歴史を間近に目撃している気分になりました。世界で一番強いと胸を張りながら政治力、経済力の衰えに戸惑うだけ。回復の手立てが見つからない焦りから、自ら築いてきた世界支配の論理を打ち捨て、目先の辻褄合わせに走り、それが裏目に出て世界への影響力を失い始める。この繰り返しが続いたら、20世紀から続いた米国の世界支配は終焉を迎えます。

 だからといって、傍観しているわけにはいきません。圧倒的に優位な立場を利用して、横暴を極める。こんなことを許したら民主主義はもう終わり。20世紀初頭、「黒人から白人女性を守る」を理由に多くの黒人をリンチした20世紀初頭の米国と重なります。ビリー・ホリディは「南部には奇妙な果実が育つ」とリンチで木にぶら下がる黒人を歌い、正義を訴えました。人間が自由に、そして平等に生きていこうとすれば、人種差別、殺人が許されるわけがない。誰でもわかることです。しかし、米国で横行していたのは事実です。

黄金時代は到来するのか

 トランプ関税は世界経済にとって、まさに「奇妙な果実」。自らを黄金時代に向かうと主張しながら、誰も納得できない論理を振り翳しても、誰が米国を尊敬し、信用するのでしょうか。結末は見えています。世界のリーダーとしての地位は危うくなり、人類の知恵を支えに築き上げたルールは崩壊してしまいます。

 もっとも、トランプ大統領は、相互関税で得られる「奇妙な果実」が米国にとって多大な恵みであると考えているのです。なぜなら、2016年の大統領選に勝利する力を生んだからです。トランプ氏は自由貿易の行き過ぎが米国の製造業を荒廃させたと訴え、錆に塗れた工場だけが残るラストベルトと呼ばれた中西部から大きな支持を集めました。

 当然、2期目の2025年でも継承します。より具体的に、かつ強烈に米国の製造業復活に舵を切ることは十分に予想されました。高い関税率を貿易国に課し、輸入を阻止する高くて厚い壁を建設して「これからは米国の黄金時代が訪れる」と見得を切れば、拍車喝采と踏んでいるのでしょう。メキシコ国境に不法越境を阻む壁を建設するのと同じ発想です。

 残念ながら、貿易収支の改善や製造業復活は米国に都合の良い事実を並べても、正解が見つかるものではありません。あまりにも幼稚です。むしろ、多くのエコノミストが指摘している通り、米国経済、そして米国の消費者にとってマイナスに働くものです。ゴールドマンサックスはすでに景気後退の可能性を指摘しています。 

 そもそも関税は国が気まぐれで関税を引き上げたり、それとも引き下げたりしても、成立する代物ではありません。関税を濫用すれば世界に保護主義が広がります。第2次世界大戦の一因とも言われた深刻な貿易戦争を引き起こすのです。戦後はGATT(関税貿易一般協定)やWTO(世界貿易機関)など多国間協調の枠組みの下で、関係国が協議、あるいは訴訟を重ねて、その結果に従って自由貿易を死守するというのが世界経済の常識です。

世界経済が腐り切る前に

「奇妙な果実」はいつ消えるのでしょうか。

 ビリー・ホリディが歌い始めたのは1939年。コンサートではかならず最後の曲として歌い、白人が繰り返す人種差別の暴挙を訴え続けました。それから83年後の2022年3月、米国政府は人種差別によるリンチを法律で禁止しました。トランプ関税と呼ばれる奇妙な果実、すでに腐り切った果実をこんなに長い年月、眺めているわけにはいきません。世界経済はすぐに腐り始めます。

 今回のトランプ関税の仕組みは多くのメディアが伝えているので、ここでは省きます。正直、算定根拠は理解不能ですから、説明する自信もありません。

主な国や地域の相互関税は次のとおりです。

各国の相互関税(抜粋)

国名       関税率

日本       24%

中国       34%

欧州連合     20%

台湾       32%

インド      26%

韓国       25%

タイ       36%

インドネシア   32%

(メキシコ、カナダは米国との貿易協定で免除)

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