米国、アジア太平洋の新経済圏 APECとTPPは? 日本に独自戦略はあるのか

 米国のバイデン大統領が新たな経済圏構想の創設を提案します。日本やオーストラリア、インド、東南アジア諸国を巻き込み、膨張する中国経済の影響力に対抗する構想のようですが、アジア太平洋にはすでにいくつも自由貿易を掲げた経済圏が乱立しています。自由を標榜しながら、締め出しをひそかに狙う矛盾するつばぜり合いが始まります。日本の自由貿易戦略は米国の背中を追うのが常ですが、経済安全保障を重要政策に掲げる岸田首相は日本独自の戦略を懐に秘めているのでしょうか。

自由経済圏構想は乱立、今度はインド取り込みが狙い

 新しい経済圏構想は2022年5月23日に開催する日米首脳会議で表明するそうです。具体的な内容はわかりませんが、関税、非関税を問わず貿易障壁を取り除くとともに、ビジネスのインフラストラクチャーであるインターネットを介した情報セキュリティー、サプライチェーンなどが重要なテーマになるはずです。といっても、こちらは建前。

 本音はインドを懐深くまで取り込むのが狙いです。そもそもバイデン大統領が来日する目的はQUAD(クアッド)首脳会議の出席。米国、オーストラリアが主導して日本、インドを加えた4カ国による新しい同盟の結束力を対外的、しかも明確に示すためです。インドは中国に並ぶ人口を擁していますが、欧米や日本と同じ民主主義国家。外交関係はロシアに近いものの、国境を接する中国と利害衝突しており、インドをぐっと引き込めばアジア太平洋からインド洋までの広範な地域の安全保障や経済の力関係で優位に立ちます。

 もちろん、念頭にあるのは中国。1990年代から南シナ海の領有権争いを中心に影響力拡大に努めてきましたが、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに中国による台湾侵攻を真剣に危ぶむ国が増えています。従来の南シナ海などでの領有権争いを上回る将来の危機が現実味を帯びてきました。アジア太平洋地域で欧州のNATOに匹敵する軍事同盟を形成するわけにはいきませんから、バイデン大統領が提唱する新経済圏構想は中国の影響力拡大を抑制する役割を担うことになります。

 ただ、すでに自由貿易を標榜する経済圏構想は並走する形で存在しています。まずはAPEC。1989年にオーストラリアが提唱し、アジア太平洋地域の貿易自由化の象徴です。21カ国・地域が参加しており、世界貿易の5割近い規模に達しています。次いでTPP。2000年代初めから構想が具体的に描かれ、中国の台頭を念頭に米国やオーストアリアなどが主導。日本も加わって太平洋に面する国以外も参加する広範な貿易圏を形成するかに見えましたが、肝心の米国がトランプ大統領の離脱表明で外れてしまいます。

 中国への対抗が意識されていたにもかかわらず、習近平国家主席が2020年に参加を表明し、米国の離脱もあってTPPの役割は本来の狙いから遠かざる可能性が出ていました。2020年末に日本はじめASEANなど15カ国が協定参加を署名したRCEPも2022年1月から発足しています。

 APEC、TPP、RCEPには日本、オーストラリア、東南アジア諸国などが重複して参加しており、RCEPには中国が参加しています。ところが、インドはRCEPの交渉途中から離脱を表明し、アジア太平洋の自由貿易構想で唯一、どこにも加盟していない重要なカードとなっています。

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