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超円安と向き合う 円高への備えを逆回転 38年前のプラザ合意の経験でリボーンできるか

 予想通り、1ドル150円のドル高円安が定着しそうです。日米の金利差を主因に円安が進んでいますが、昨年は今年半ばには円高へ転じるとの見方もありました。今はそんな声は聞こえてきません。外国為替の予想は神のぞ知る世界です。誰の予想も当たりません。とはいえ、11月3日に発表した米国の10月の雇用統計は、市場予想を下回る水準となり、FRB(米連邦準備理事会)が今後も利上げする勢いは一時停止します。外国為替市場の行方は読みやすくなるかもしれません。

円安は定着へ

 確実に言えるのは、日本は円安と円高を繰り返しながらも、円安時代を迎えることです。1ドル150円が目処になるかどうかはわかりませんが、欧米のみならずアジア各国に対しても日本円の価値が安くなる可能性が大きいと考えています。その理由は何か?日本経済の力強さが弱っているから。この説明はまだ響きが良い方です。実態は、日本経済の衰退を前提に次代に向けた処方箋を実践しなければ、日本経済の疲弊を理由に円安が進行します。現在の円安はその警鐘に過ぎません。

 目先は、過度な円安が進行する雰囲気は見当たりません。日米の金利差が開くばかりだった局面は終わりました。日本銀行は長期金利の動向に対し柔軟な対応を見せており、1%近く上昇する場面もありました。FRBが繰り返してきた利上げを収めたら、イールド・カーブコントロールに拘り続けた日銀の軌道修正をきっかけに金利差は縮小するかもしれません。

 円安は修正され、円高に振れる瞬間です。事実、米雇用統計が発表される直前、ニューヨーク外国為替市場では日米の金利差が拡大するとの見方から一時1ドル150円台まで円安が進行しましたが、雇用統計の数字を受けて3日の市場は一時、1ドル149円台前半まで値上がりしました。就業者数の伸びが予想を下回った結果、インフレ圧力が低下した証と見て、FRBは利上げを見送るとの観測が広がり、円を買い戻す動きが出たからです。

 しかし、円高の流れはいつまでも続くでしょうか。米金利もドル高も頭打ちとなる可能性が否定できませんが、今後も円安を推し進める圧力に変わりはないとの見方が多いようです。日本の通貨当局は為替介入を示唆しているとはいえ、ドル円の振幅を制御できる力はなく、大きく円高へシフトするとは思えません。

足元の景況は悪くないが、先行きはどうか

 日本の足元の景況は悪くありません。最新の日銀短観の数字をみても、大企業の製造業は自動車生産の回復で明るさが灯り、大企業の非製造業は外国人観光客の増加によって息を吹き返しています。日本経済は回復しつつあるといえそうですが、今後3か月先の景気は、製造業がほぼ横ばい、非製造業は悪化をそれぞれ予想しており、先行きを楽観できる状況ではありません。個人消費に代表される日本の購買力はこれまでの物価高騰で弱っており、国内の景況そのものがズルズルと萎んでいくかもしれません。

 1985年9月のプラザ合意で日本が向かうドル円の世界は様変わりました。260円台から奈落の底へ落ちるように円高が進行。1990年代以降、日本企業は急激な為替変動に対応できるよう海外での現地生産を拡大する一方、円建て決算を増やし、為替変動への抵抗力を高めています。

 ただ、経済は生き物です。企業は中長期的なドル円相場を念頭に経営戦略を遂行し、収益を高めていきます。環境が激変しても対応はできますが、”体質改善”には時間はかかります。中には激変した環境に対応できずそのまま朽ちてしまうこともあります。

ニトリは割安から高級へ

 例えば家具大手のニトリ。2000年代から円高を活用してアジアで生産した家具製品を輸入し、その割安感で急成長してきました。それだけに急劇な円安は経営にマイナスです。2023年3月期決算は、24年ぶりの減益となりました。商品構成の9割が海外で生産し輸入する構造です。円の円安は年20億円の減益に直結します。ニトリの商品戦略をみていると、割安なセールを目玉にするよりも、アイデアや使い勝手の良さ、高品質を前面に出して価格を引き上げているのがわかります。円高から円安へ移行する経営環境に対応する姿がはっきりと見て取れます。

 もちろん、輸出企業は恩恵を受けます。直近のトヨタ自動車グループの中間決算は円安による増益要因を加え、好決算となりました。これはあくまでも一時的。自動車や電機など主要産業は為替変動に左右されない収益構造を構築しているので、円安を景況の追い風にと期待するのは無理。

 むしろ、円安による諸物価高騰で個々の家庭の財布がさらに厳しさを増すのは間違いありません。2023年の春闘で3%を超える大幅な賃上げ率を達成しましたが、諸物価の上昇を考慮すれば実質的に所得は減収しています。来年2024年の春闘でも大幅な賃上げを唱える企業が相次いでいますが、あくまでも大企業に限定されます。中堅・中小企業が大企業並みの賃上げ水準に追随できるとは思えません。

増益の大企業は中小に分配し、賃上げを促す

 トヨタに限らず増益を謳歌した大企業グループは、系列や下請けなど取引先に対し自らの増益分をそれぞれの賃上げ原資として配分する必要があります。さらに世界に張り巡らした調達網、言い換えればサプライチェーンの組み直しも必至です。

 日本が活力にあふれ、自動車、電機に代わるユニコーン企業が現れる状況なら心配ありませんが、残念ながら日本経済の主役は自動車、電機、素材など「昭和の大企業」ばかりです。新たな成長力をエネルギーに円安でも円高でもどんな経済環境でも対応できるフットワークは持ち合わせていません。日本経済がリボーン(再生)できなければ、円安はボディブローのように打撃を与え続けるに違いありません。

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