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藤田田の眼光が蘇る ロッテリアを終始無視、モスバーガーには本気、結末が見えていた

 「ロッテリア?、それってどこにあるの?」。

 ファストフードの象徴でもある日本マクドナルドの創業者、藤田田さんに取材した時です。同じハンバーガーを販売し、マクドナルドに次ぐ第2位のチェーンの名前を知らないわけがありません。質問したこちらも「何か間違ったことを訊いたか」と自信を失いそうでした。藤田さんは終始、無視。「ロッテリアって知らないのに、訊かれたって答えられない」。素っ気ないなんてもんじゃない。

「ロッテリアってどこにあるの?」

 それじゃあというわけで、最も伸び代が大きいと見ていたモスバーガーについて訊ねました。「あれは街の隅っこにあるハンバーガー店。手作り感を前面に出して差別化しているけれど、うちのライバルにはならないよ」。全く見下した言い方ですが、ロッテリアと違ってモスバーガーの健闘ぶりを評価して答えています。

 ロッテリアとモスバーガー。藤田さんの眼にはどう映っているのか。ひょっとして私と同じ。モスバーガーの方が将来性があると踏んでいる。そう確信しました。

 自分はまだ入社2年目の新聞記者。百戦錬磨、世の中の裏も表を知り尽くした藤田さんの胸の内を読む力などありません。結局、取材は全くすれ違いに終わり、その後に秘書の方から「いい線まで行ったんだから、もうちょっとがまんしなきゃね。若いね」と諭されるオチまでいただきました。

外食産業が急拡大する1980年代、吉野家は倒産

 1980年代のころです。飲食店が外食産業と呼称を改め、世間の目も変わりました。ファミリーレストランなど多くの外食企業がチェーン展開を一気に加速。外食需要は拡大していましたが、新規参入が相次ぎ、生き残り競争は激化。「牛丼一筋80年」と盛んにテレビCMを流していた吉野家が倒産したのも、ちょうどこの頃。

 ハンバーガーもサントリー、森永製菓、大手スーパーなどが店舗数を増やし始め、混戦・乱戦模様。しかし、藤田さんの自信が揺らぎません。唯我独尊と揶揄されるようが、外食の未来を見極めているのは自分だと。

藤田田は逸話、伝説の人物

 藤田田さんの人物像を語る力はありません。関する逸話、伝説は数えきれない。東京大学在学中、高金利の金融業「光クラブ」の創業者にお金を貸し付ける。自らをユダヤ人と重ね合わせて自身の金銭感覚と事業センスを誇らしげに語り、著作も発表する。実際、マクドナルドやトイザらスなど手掛けた事業の成功を見れば、反論できません。その嗅覚を疑う人が誰もいなかったのも事実です。

本物とコピーの違い

 その藤田さんはロッテリアを完全に見切っていました。マクドナルドは、米国流のマニュアル主義を徹底する一方、ハンバーガーを通じて豊かな米国にあこがれる日本人の潜在意識を読み取り、日本ならではの店舗作りや商品開発に力を入れます。米国に旅行した時、現地のマクドナルドに入れば日米の差に気がつくはずです。日本はおしゃれなレストランですが、米国は全く違います。

 彼の眼から見たら、ロッテリアはファストフード・チェーンの真髄を習得せず、真似をしているだけ。消費者はかならず本物とコピーの違いに気づき、マクドナルドを選ぶ。コピーに気を遣うような無駄なことはしない。比較されるのも嫌悪感を覚える。取材中の無視にこうした信念が伝わってきました。

「マクドナルド」は米国で通じない

 もっとも数多くの功罪があります。最も大きいのはマクドナルドと呼んだことでしょうか。McDnald’sは本来、「マクダーナルズ」という感じで発音するはずです。藤田さんは日本人が覚えられる発音がふさわしいと米国の反対を押し切って「マクドナルド」を選びました。

 発音の違いを知らずに米国でマクドナルドと発音してしまうと、相手はチンプンカンプン。新聞社の後輩が米フォードの取材に行った時、取材相手はMcDnaldさん。後輩は広報担当者に「ミスター・マクドナルド」と発音したら、「あなたの英語力では取材できない」とその場でドタキャンされました。

ロッテリアはゼンショーに売却

 なぜ藤田田さんの逸話を思い出したのか。ロッテリア売却のニュースを知ったからです。

 ロッテホールディングスはロッテリアを外食グループのゼンショーグループへ売却するそうです。ロッテリアの店舗数はピーク時の500店超からから350店あまりに。マクドナルドの8分の1、モスバーガーの3分の1だそうです。業績も振るいません。赤字か利益が出てもわずか。

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