イグアナとハイブリッド車④ハイブリッドは開発途上 貪欲に進化し生態系を広げる
ハイブリッド車を礼賛するつもりはありません。すでに歴史に刻まれた名車と評する気もありません。ガソリンと電気を高効率に消費する目標は素晴らしいのですが、達成までの道のりは七転八倒。トヨタ自動車が1997年に新車として発表した当時、技術として満足できる水準に到達していたかどうか。デザインも決して優れていません。かつて米GMのトップが「さえない車」と酷評し、そのままGMの評価を下げる不甲斐ない結果を招きましたが、その時も「デザインはその通り」と心の中でうなずいた人は多かったのです。
「プリウス」との出会いは鮮明に覚えています。ただ、場所も日時もはっきりしません。きっと1997年10月の東京モーターショーだったはずです。確か一般公開に先立ってメディア向けにお披露目する日。いろいろな意味で衝撃だったので、プリウスを目撃した印象ばかりが強く残り、細部の記憶が飛び去っています。トヨタのみなさん、ごめんなさい。
会場に入り次第、トヨタ自動車のイベント会場に向かい発売が直近に控えた「プリウス」を探しました。幸い新聞やテレビの取材記者の姿はなく、プリウスのそばに1人立っていました。お顔からすると開発主査の内山田正さんだと思いました。名刺をもらっていないので勘違いでしたら、再びごめんなさい。
周囲に誰もいないこともあって、気楽にプリウスの仕上がり具合について雑談しました。プリウスは大きな話題を集めていましたが、正直いってクルマとしての仕上がりはまだ道半ばと考えていましたから、かなり率直に質問し、答えてもらえました。
「なんか後部座席が狭くて苦しそうですね。トランクも含めてもうちょっとスッキリできませんでした?」
「いあや、バッテリなどを上手く配置するのにかなり知恵を絞ったのですが、なかなかうまく嵌め込めないのです。燃料タンクのようにはいきません。ハイブリッドの性能を考えたら、バッテリーを優先するしかないですから。後部座席の空間はちょっと申し訳ないかも。がまんして座ると感じるお客様がいるでしょうね」
「ガソリンエンジン車と走りはどう違いますか。スタートは電気モーター、走り始めたらガソリンエンジンがそれぞれ役割分担します。切り替え時、アクセルを踏むドライバーが『あれっ』とびっくりするような走りの違和感は表れないのですか」
「モーターはエンジンに比べて静かですから、動き始めたことに気づかないかもしれません。エンジンに切り替わる時はちょっとだけ切り替わる感触を覚えるかもしれませんが、瞬時ですから運転する人は気づかないでしょう。むしろ車の周囲にいる人が心配です。知らない間に後ろに車が迫っていたなんてことがあるかも。動き始めたことを知ってもらうため、なにかしらエンジン音に似た響きを発する工夫が必要かなと考えています」
「車のデザインはちょっと丸いイメージが強すぎるかも」
「デザインは空力性能を徹底的に研究して設計した結果です。むしろ未来から来たクルマのイメージになるかと思います」
取材というよりは自分が運転したいかどうかの視点で雑談してしまったのですが、終始にこやかに教えてくださり、助かりました。ただ、プリウスの車体デザインについては説明しながら、ご本人も苦笑していましたからまだまだ改良したかったと言いたい雰囲気を感じました。あくまでも個人的な印象です。
プリウスの開発の苦労話はトヨタの公式ホームページなど多くのコンテンツがネットで掲載されています。個人的にはこちらの記事が楽しく読めました。あくまでもご参考に。https://gazoo.com/feature/gazoo-museum/car-history/15/12/11/
プリウスの発売後の反響は説明する必要がないでしょう。世界から高い評価を得ます。ハイブリッド車の量産は世界で初めて。燃費は当時のガソリン車の2倍も高い1リットル当たり28キロ。驚くしかありません。価格も215万円から。「21世紀にGO」のキャッチフレーズにちなんで設定されたという噂もあります。同じ小型車で比べれば割高ですが、200万円代に収めたのはさすがトヨタです。
トヨタは京都の1台売れば数十万円の赤字と言われていましたから、ヒットするとは思わなかったはず。実際、発売後は6年間で12万台でヒットとはいえません。値段の高さもありますが、走りや後部座席の窮屈さがあります。走りもタクシー運転手は「赤信号から青信号へ切り替わる時が怖い」と話すように、電気モーターのスタットダッシュが遅く、周囲のガソリン車に追突されるのではないと異口同音に話します。
ハイブリッド車にとって完成形は遥か遠い存在です。貪欲に進化し、ガソリン車に負けないクルマに仕上がります。今度のチャレンジャーは電気自動車。いかようにも変態します。生態系はまだまだ広がっているのです。