村上農園、O157を越えて「シン・農業」を創造し続けるディスラプター

 村上農園との出会いはウコンがきっかけでした。勤めていた新聞社の人事異動で広島支局長に赴任した直後、偶然お会いしたのが村上農園の村上清貴さん。現在は社長ですが、20年以上前ですから当時は常務。

「お顔をみるとお酒がお好きそうですね」

いやあ、酒を飲みすぎるせいか、背中の肝臓あたりが張るんですよ」

「それだったら、生ウコンを毎日かじって食べた方が良いですよ。小指の先を噛むぐらいの量で十分ですから」。

 村上さんは「騙されたつもりで」と笑っていましたが早速、生の秋ウコンを買い、毎日食べ続けたら肝臓の張りが消えた気分になりました(注;あくまでも個人の感想です)。以来20年以上食べ続け、γーGTPなどの数値も改善。その後のウコンブームのおかげで沖縄産の生ウコンが手に入らない時期がありますが、めげずに探し出して毎日かじり続け、今も安心して大酒をくらっています。

かいわれ大根はO-157中毒で大打撃

 村上農園はかいわれ大根、豆苗、ブロッコリースプラウトなどでテレビや新聞でよく登場しますから、ご存知の方も多いはず。スーパーなどの野菜売り場へ立ち寄れば、かならず見かける商品です。ウコンの効能を知った頃は、かいわれ大根がO157中毒の感染経路といわれ、突然襲われた経営危機をなんとか豆苗で切り抜け、次にブロッコリースプラウトを主力商品に育てていた時期でした。

 たまたまですが、広島支局長に赴任する前は、狂牛病、雪印乳業の食中毒、ゼネコン倒産の3点セットを担当するデスクを務めていました。企業や産業を担当しながら事件モノを記者とともに追いかけ、編集していたのです。今振り返ると、この3点セットの組み合わせはちょっと異常

 食中毒事件に携わったので、1996年に堺市で発生したO157中毒事件はもちろん知っていました。かいわれ大根が感染経路としてメディアに大きく取り上げられ、売り上げは激減。村上農園は経営危機に追い込まれました。本社は広島市です。

かいわれ大根はじめ創業期からの村上農園の歴史は次のアドレスから。とても読み応えがあります。

https://www.murakamifarm.com/about/history/

創業者の村上秋人氏はベンチャー企業の社長のよう

 早速、創業者の村上秋人社長(現会長)に取材を申し込み、本社へ向かいました。第一印象は「ベンチャー企業の経営者みたい」。意外でした。村上農園は会社組織ですから経営者なのは当たり前ですが、農業が主体ですから勝手に野菜作りに没頭するタイプを想像していました。心血を注ぎ味はもちろん、消費者が安心して食せるよう栽培する。これまでお会いした農業経営者はそうでした。

 村上さんが違うのは、自身が栽培する作物の独自開発力とともに、売れる商品に育てるマーケティングについて自信たっぷりに説明することでした。トップシェアを握ったかいわれ大根が好例です。水耕栽培の良さを活かす特殊なマットを使って大量生産に成功。調理の用途を広げるため、お寿司に巻いてしまう「かいわれ巻き」を提案し、全国に普及させます。価格競争力と用途開発が強ければ、あとは成長するだけ。今のスタートアップ企業に必須条件を体現していました。

 取材した頃はスプラウトに注力していました。感染経路と間違われたかいわれ大根の風評被害に対するメディア批判を聞いた後、スプラウトを手に持って、ジョンズ・ホプキンス大学の先生がブロッコリーの新芽にガンに効く物質を発見し、ライセンス契約を結んで生産していると説明します。

スプラウトのキーワードは「ガン、健康、米大学」

 ちょっとビビりました。「ガン、健康に効く食品、米大学との提携」。この3要素は1980年代、ベンチャー企業を取材していた頃によく聞いたキーワードでした。画期的な商品を開発、発売する時、この3要素のいずれかが入っています。こちらも真偽を確認して記事化するのですが、最後まで納得できず記事化を見送ることはたびたびでした。

 村上さんの説明を聞いた時も正直、腰が引けました。すでに商品としてスーパーなどに出回っており信頼できるはずですが、心の底ではちょっとビクビクします。お話を聞いた後、本社事務所のそばで実際に栽培しているビニールハウスを見学へ。規模が小さいので試験用かなと思いましたが、ハウス内の土壌はていねいに手入れされ、新芽がきれいに並んでいます。担当者がゆっくり見回しながら、生育をチェックしていました。

 ハウス内は半導体のクリーンルームのようにピーンと張り詰めた空気で占められています。「村上農園は信頼できるなあ」と思った瞬間でした。ウコンも体に効いているようだし、と余計な心情も加わりましたが。

 その後のスプラウトの快進撃は説明不要でしょう。村上農園の栽培は、今や植物工場の先進モデルとして紹介されています。新商品も次々と発表しています。

 村上農園の企業イメージは今もスタートアップしたばかりのようです。健康食品は通販広告の主役でテレビ、ネットでよく見かけますが、消費者が安心して購入して満足するためにはその効能を科学的に説明し、安全に、しかも効率よく栽培する生産体制が不可欠です。

 ホームページを開くと、トップ画面の真ん中に「類似品にご注意ください」。コピー商品が出回るほどの影響力を持ち、消費者から信頼を得ている証でしょう。

健康を軸に新商品、植物工場と革新が続く

 日本の農業はエネルギーや資材・飼料などを輸入に大きく依存しているため、厳しい経営に直面しています。かいわれ大根、豆苗、スプラウトに続く新商品を開発し、生産工程を革新する村上農園をみていると、広大な面積や大規模な機械化で国際競争力を生み出す欧米とは違う日本の農業の生き残る道筋を見る思いです。

 そういえば昭和のヒーロー、ゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダーは「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」「シン・仮面ライダー」に生まれ変わって新たなファンの心をつかんでいます。、村上農園が「シン・農業」を提示しているとみても良いのではないでしょうか。

 ウコンはやっぱり肝臓に良いはず〜。20年以上過ぎて、改めて痛感しています。

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