• HOME
  • 記事
  • 私の産業史
  • 「クルマはいらない」消費の地殻変動が聞こえる 半導体、サブスク、燃料高騰・・・

「クルマはいらない」消費の地殻変動が聞こえる 半導体、サブスク、燃料高騰・・・

 ひたひたと押し寄せる波の響きが聞こえます。消費行動が大きく変わる地殻変動を伝えているようです。数字の上では、まだコロナ禍の影響もあって変動の振れ幅に隠れて明確に表れていません。しかし、販売現場の息遣いが明らかに違っています。

新車販売は11ヶ月連続して前年同月実績割れ

 住宅に次ぐ高額消費財の代表、クルマ販売を見てみます。2022年4月の新車販売は29万9620台、前年同月実績と比べて14%以上も減少しました。マイナスは11ヶ月連続です。自動車販売の業界団体によると、解消されない半導体不足に中国・上海市のロックダウンの影響による部品調達の遅れが加わり、自動車生産が計画通り達成できなかったと説明します。

 新車販売の内実はコロナ禍の強烈なパンチにもう耐えきれず、足元はヨロヨロです。前年の2021年の新車販売は約444万台。前年実績比3%超の減少。3年連続して割り込んでおり、450万台を切るのは2011年以来10年ぶりです。同年は東日本大震災があった年です。2021年の新車販売の衰えがわかります。ある経営コンサルタント会社は、カーディーラーは停滞期を過ぎて衰退期に入ったと説明します。

 自動車メーカーの販売店を訪れました。親しいスタッフと会い、最近の雰囲気を訊ねました。「半導体不足で納車が一年、一年半とかかる例も出ている。価格が高くなる新車も出てくるしねえ」と苦笑しながらも、「お客さんには『いつかは買い換えるんだから、中古車の価値が高いうちに新車に切り替える時期を忘れないでくださいね』とお願いするぐらい」と諦めムードです。目の前の厳しい状況を冷静に受け止めていることに驚きました。車が売れない理由がここまではっきりしていると焦ってもしかたがないという感じです。

カーディーラーは達観している

 新車販売の中身も良くありません。トヨタ自動車以外の日産自動車やホンダは台数を稼ぐため、すでに軽自動車が販売の主軸となっていますが、トヨタも数字を上げるために軽と競合できる小型車に注力しています。2021年で最も売れた小型車はトヨタ「ヤリス」。このヤリスシリーズにはスタンダードのヤリスのほかSUV感覚のヤリスクロスと高い走行性が売りのRSヤリスの2車種が加わっています。ヤリスクロスは車離れしている若い層の掘り起こしを狙っており、割安感もあって台数が積み上がっています。

 しかし、その手法が販売台数の底上げにつながるかどうか疑問です。ヤリスは車内空間に余裕がないため、ファミリー層には使い勝手が良くありません。最初の1台目としてヤリスを購入した層が子供も含めた用途を考慮して「いつかはクラウン」の方程式の通りに上級車に移行していけば良いのですが、年収は足踏みしており、ガソリンなど諸物価は上昇する傾向が続けば実質年収は下がってしまいます。新車購入を断念すれば、単に需要の先食いしただけで終わってしまいます。

 新車納入が一年待ちという異常事態を反映して中古車市場が活況しています。中古車の価格も上昇中です。新車が納入するまで一時的に中古車を乗った客のなかには、新車そのものを諦める層が増えます。現在の異常事態は「新車を待つ」から「購入を見送る」へ転向する消費者を増やしてしまい、自動車販売の土台を崩しかねない恐れを引き寄せているのです。

 そこにサブスクが普及し始めます。車を購入せずに必要な時にだけ利用できるサブスクリプッション方式は、自動車メーカー、石油スタンドなどが続々と打ち出しており、所有せずに車を利用できる心地よさを知る良い機会です。結果、新車購入を見送る層を一段と厚くするでしょう。

所有しない快感が広まれば、従来の販売は崩れる

 この傾向は新車販売だけでのことではありません。都市近郊の国道沿いをみてください。大苦戦する紳士服チェーン店はじめ小売店舗の転廃業が始まっています。紳士服市場では過去10年間で進行しており、コロナ禍でテレワークの普及やライフスタイルの変化で縮小速度は加速。ピーク時に比べて7割も減少しているという数字も見かけます。

あのドンキも地殻変動に気づき、自らを否定し始めている

 最近、若者らに高い人気を集める量販店「ドンキホーテ」を訪れて、商品の展示に変化が出ていることに気づきませんか。うず高く積み上げられた宝物の山を探る楽しみを覚える「圧縮陳列」で若者を引き寄せ、大手スーパーを打ち負かす強さの源泉といわれえていました。そのドンキの売り場で商品がきちんと並べられ、まるでセブンイレブンの商品棚の雰囲気が漂い始めています。プライベードブランドも増えています。安いだけでは売れない。売れ筋をきっちりと把握して一商品当たりの粗利を高める手法に力を入れています。あのドンキが手堅いビジネスを徹底し始めています。

 消費が衰えた街は次々と店舗が去っていき、最後に残るのはパチンコ店です。パチンコ店の勢いは駐車場に並ぶ車の台数でわかります。そのパチンコ店が閉店した街はもう活力を取り戻せないといわれます。それは車販売の未来をも暗示しているのです。

関連記事一覧