トヨタとキヤノンが交錯する① プロの経営者が創業家に駆逐される

 トヨタ自動車とキヤノンが歩む道が重なり始めているようです。

 もう30年以上も両社を眺めてきました。世界トップクラスの地位を固め、日本を代表する優良企業として誰もが注目し続けてきました。経営の業績は素晴らしく、国内外の金融市場から重要な投資先として評価されています。業績の推移は日本経済の趨勢を占う材料のひとつです。

日本経済の強さを創り、リードしてきた2社

 ここでは、トヨタ、キヤノンの両社の近未来を遠目で眺めてみます。直近の経営業績にとらわれずに複眼で見つめると違う風景が映ってきます。企業を支えてきた人材力、技術力が息切れしていないか。両社の従業員は自社の経営戦略に納得しているのか。少なくとも定年を迎えるまでの数十年先まで安定した会社として評価していなければ、会社への忠誠心は維持できませんから。

 もちろん、いつも万全の体制で臨めているわけではありません。業績は世界の政治・経済情勢に左右されますし、市場創造を担う技術力や人材力に対する過不足は常に山谷があります。まして世界は政治・経済が大きく揺れる可能性が高まっています。1企業の力だけで乗り切れるものではありません。しかし、これら経営環境に関する数多く変数を考慮しても、企業は生き残り、継続するミッションを担っています。それは企業そのものの生存本能だけでなく従業員、その家族、株主、グループ企業、取引企業など数え切れない利害関係者とともに生き続けているからです。

創業家が活力と技術革新力を奪い始めている

 トヨタ、キヤノンを冷静に見つめると、両社は明らかに同じ方向に進んでいます。経営の主軸が重なってみえます。それは創業家による経営が社内のバイタリティとともに技術革新力を奪い始めているからです、その結果、自社の未来力が霞んでしまい、目先の経営に終始する悪循環に陥る恐怖に自らも気づき、佇んでいるかのようです。

 なぜトヨタとキヤノンの2社を選ぶのか。2社以外にも日本を代表する優良企業はまだまだあります。ソフトバンクグループはどうでしょう。最近、目玉が飛び出るほどの驚く巨額赤字を計上しましたが、米国メディアは既存の経済モデルを破壊する日本で唯一のディスラプター(破壊者)と高く評価しています。ポケモンなどゲームソフトの覇者である任天堂も唯一無二の経営を堅守しています。明治以来の日本を支えた三菱、三井の財閥系企業で世界から注目を集める会社は?あるいは戦後生まれのソニーやホンダをもっと深掘りするのが良いのかもしれません。

日本の製造業の衰退が加速する恐れも

 トヨタとキヤノンは日本経済の強さの根源である製造業を体現する会社です。自動車は3万ー5万点に及ぶ部品の結集体です。トヨタは新車開発の司令塔でありながらも系列メーカーから部品を調達し、それを効率良く組み立てる完成車メーカーの立場。新車の出来不出来は高品質を守りながら大量生産できる部品メーカーの力量で決まります。それは精緻な金型を製作する工作機械メーカー、難しい設計に耐えられる金属・プラスチックを生み出す素材メーカーなどが控えていなければ、自動車部品の進化はありえません。トヨタが頂点に立つ系列グループは2次、3次下請けを含めれば4万社を超えます。

 キヤノンは自動車のように大きな塊として見えませんが、日常生活や企業の活動を支える機能・サービスを支えています。創業事業のカメラからレンズの研磨技術、精密機器、電子機器を取り込み、カメラ・ビデオのデジタル映像機、複写機、光学関連の製造装置など毎日の生活・活動で欠かすことができない身近な機器やサービスを生産しています。キヤノンの製品力を支えるのは、自動車産業を上回る精密な加工技術です。より高精細な部品、組み立て技術や半導体やセンサーなど最先端技術があってこそ、デジタルカメラ、複写機など事務機器が完成します。

 トヨタ、キヤノンの浮沈は、日本の産業力の隆盛、あるいは沈滞を象徴する存在といって間違いないでしょう。両社とも創業以来、産業基盤を底上げする原動力とリーダシップを発揮しています。だからこそ日本の未来を考えるうえで、これまでの、そしてこれからも強さを継承してほしいと願っています。

優秀な生え抜き社長が困難と技術革新を繰り返してきた

 ところが、その経営力は消耗しているように思えてなりません。優れた経営者の輩出を抑え、創業家のブランドにすがる経営に姿が変わってしまいそうです。トヨタもキヤノンも創業家が株主としても経営者としても力を持ち、その成長力を持続してきたのは事実です。しかし、その沿革を振り返れば、創業家が一歩譲り、経営のプロともいえる優秀な生え抜き社長が困難な時期を突破し、再び飛躍する歴史を繰り返しています。

 今、その突破力と創造力に陰りが見始めたのです。トヨタとキヤノンの2社から日本経済に活力を再びもたらす経営とは何を考え始めたいと思います。

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