実録・産業史10 終焉を迎える創業家による経営 トヨタは豊田家か
自動車メーカーで創業家を取り上げるなら、トヨタ自動車をまず解明しないといけないでしょうね。欧米、インドなどアジアの多くの国で創業家の名前を冠した自動車メーカーが大きなシェアを握っています。日本もトヨタ、スズキが創業家出身の社長が就任しています。自動車を生産するためにはまず資本力が必要であるほか、エンジンやトランスミッションなど主要部品を生産する系列メーカーを率いるとともに国の産業政策に深く関わる経営力が不可欠だからなのでしょう。この厳しい条件をクリアできる人材が経営する会社だけが激しい生存競争に勝ち抜きます。そしてカリスマとなった経営者が後継を自らの血縁から抜擢し、従業員、関係会社などもリーダーとして認め、この結果が創業者一族がトップを占める構図が出来上がるのです。まるで歴史書に出てくる独裁が成立する過程のようですね。
豊田家が率いるトヨタは世界最大の自動車メーカーの地位に上り詰め、日本の産業界のリーダーと目されています。愛知県、静岡県、広島県はいずれも戦前の軍事産業が多く集まった地域です。技術力のある企業が集積していた中から頭抜けた存在にのし上がったわけですから、トヨタ、スズキ、マツダを築いた創業家は卓越した人材を輩出し続けた証です。その中でトヨタの本社所在地だった愛知県挙母市は豊田市に改名したほどです。浜松市が鈴木市、広島市が松田市に名を変えていないことを考えたら、トヨタを頂点とした愛知県の産業集積がずば抜けた力を持っていることがわかります。