アフリカ土産物語(28)OAU首脳会議の役者たち 主演男優賞級がズラリ

 「これがアフリカなのだ」と実感したのは2001年7月。

アフリカ各国から集まった記者たち

 植民地支配からの脱却を掲げるアフリカ統一機構(OAU)を閉じる首脳会議だった。アフリカ諸国が独立に沸く1963年に創設された組織が歴史的使命を終えることもあり、41カ国の元首らニュースをにぎわす面々がザンビアの首都ルサカに集まり、なかなかの〝役者ぶり〟を見せたのだ。

予定より半日遅れで始まる

 会議は翌年創設されるアフリカ連合(AU)への移行を協議する場で、グローバル化を背景に人権保護や平和維持活動に向けて権限を強化するため、EU(欧州連合)をモデルに安全保障の推進などの近代化をアピールする注目の舞台のはずだった。

 ところが予定されたスケジュールは開会から大幅に遅れる。驚かされたのは、会議運営者に焦った様子がないことだった。報道陣ものんびりと構え、現地記者に「どうなっているの?」と聞いても、「これがアフリカンタイムさ」と屈託なく笑うだけだった。

再会したオバサンジョ大統領

 「分刻みで社会が動く日本の方がおかしいのか」と困惑していると、半日くらい遅れて各国首脳が会議場に入ってきた。新聞で見覚えのある顔も多く、2カ月前にインタビューしたナイジェリアのオバサンジョ大統領の席に近づくと、無言の大統領から手を差し出されたので、「どうも」と思わず握手で応じるはめになった。

ピースサインのアラファトPLO議長

 首脳以外に、ガーナ出身のアナン国連事務総長、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長も座っていた。イスラエルとの和平が頓挫している議長に思わずカメラを向けると、満面の笑みにピースサインで応じたので「こんなにゆるくていいの?」と拍子抜けした。

演技はいずれも強烈

 トーゴのエヤデマ大統領の長広舌には呆れた。1967年からの長期独裁政権に居座る人物だ。民主主義への移行も重要課題だというのに、時間無視の大演説を他の首脳たちは笑顔で見ている。「アフリカには年長者を敬う文化がある」と誰かが言ったとおりの光景だった。

 大トリで登壇したのが、中東からアフリカに軸足を移そうとするリビアのカダフィ大佐だ。大スターさながらに悠然と現れ、ささやくような小声で語り始め、次第に声を強めていく。欧米への敵意をむき出しにしたカリスマ指導者は叫ぶような激しい口調で拳を振り上げて演説を締めると、興奮しきった会場の万雷の拍手を浴びたのだった。

演説するカダフィ大佐

カダフィ大佐は小さな声で始まり、最後は叫ぶように

 それを見ていた外交通の政治家は「ヒトラーの演説もそっくりだったらしいよ。静から動へ、セックスと同じでエクスタシーを感じさせ、特に女性は熱狂してしまう」とささやいた。なるほど国際政治の舞台にも演劇的要素があるのかと感心したものだ。

 その時の土産というわけではないが、私が撮影した写真が昨年夏に出版された学術書「ようこそアフリカ世界へ」(昭和堂)に収録された。編著者の阪本拓人・東大教授から提供を頼まれたのだが、実は彼が小学生のころに取材して以来、三十数年も交流が続いていたからだ。当時はそれぞれ学者、特派員として将来アフリカに関わるとは思ってもみなかっただけに、縁とは不思議なものである。(城島徹)

書籍に掲載された会議の写真

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