アフリカ土産物語(8) マンデラ追想 囚人番号 慈善コンサート「46664」

 ロベン島の刑務所に18年収監されていたネルソン・マンデラ元大統領の呼びかけで2003年11月29日、エイズ啓発のチャリティーコンサート「46664」がケープタウンで開かれた。マンデラは貧しい国民が犠牲となるエイズを「単なる病気ではなくアパルトヘイト(人種隔離)と同じ人権問題だ」と訴えた。世界の著名なミュージシャンが集い、マンデラ自身も登場した歴史的イベントを観客の一人として目撃した記憶をたどってみたい。

エイズ犠牲者を埋葬するヨハネスブルクの墓地 

 エイズはアパルトヘイトと同じ人権問題

 そのころ南アフリカはHIV(エイズウイルス)感染者が国民の6人に1人とも言われるほど深刻だった。発症を抑える高価な治療薬に手が届かない人がほとんどで、週末の墓地はエイズ犠牲者の埋葬でラッシュ状態となっていた。

 「46664」はロベン島でマンデラに付けられた囚人番号だ。1964年に投獄された466番目の受刑者という意味で、マンデラは「名前ではなく数字で扱う行為自体が人間の尊厳を奪うものだ」と主張し、自身の財団への寄付金を募るキャンペーンの象徴と考えたのである。

46664の関連紙面

 4万人の観客で埋まった競技場に夕闇が迫るなか、コンサートが始まった。マンデラの依頼を受けたイギリス人ロッカーのデイブ・スチュアートが音楽ディレクターを務め、かつてエチオピアの飢餓救済コンサート「ライブ・エイド」を企画したボブ・ゲルドフ、アイルランドのバンドU2のボノ、エイズでボーカルのフレディ・マーキュリーを失ったクイーンのメンバーらが次々とステージに立った。

コンサートには世界の人気ミュージシャンが次々と

 出演者の豪華な顔ぶれに驚いた。R&Bの歌姫ビヨンセ、ニューヨーク育ちの女性歌手アナスタシア、イタリアのロック歌手ズッケロ、アイルランドのザ・コアーズ、ジャマイカのジミー・クリフ、キャット・スティーブンスの名で知られたユサフ・イスラム……。イヴォンヌ・チャカ・チャカ、レディスミス・ブラック・マンバーゾら南アのスター、ベナン出身の女性歌手アンジェリカ・キジョー、セネガルのユッスー・ンドゥールらが歌い踊った。

 エイズ撲滅を訴えるオリジナル曲「46664(long walk to freedom:自由への長い道)」の披露に続いてマンデラ自身がステージに登場した瞬間、観客の興奮は頂点に達した。鳴りやまない拍手がようやく静まると、マンデラはこうスピーチした。

興奮のるつぼと化したコンサート

 「46664は私の囚人番号でした。ロベン島での18年間、私はその数字だけで扱われていました。いま何百万人ものエイズ感染者も単なる数字だけで扱われています。彼らもまた終身刑に服しているのです。だから私はこの番号46664をこのキャンペーンに役立てることにしたのです」

マンデラ元大統領のスピーチ動画は以下のアドレスから視聴できます。

https://www.youtube.com/watch?v=WwpkpuOSjrI

スーパースターは、やはりマンデラだった

 4時間半のコンサートが終わった会場で、ビヨンセやアナスタシアのファンだという10代の少女たちに感想を求めると、彼女たちは「エイズ対策はコンドームを使うこと」「このコンサートで多くの人が真剣に受け止めるわ」と上気した様子で答えた。

 あの日、印象的だったのは、ステージ上で名だたるロックミュージシャンたちが伝説の闘士におずおずと握手を求め、しおらしくおじぎをした姿だ。その珍しいシーンを見て、「マンデラこそ圧倒的なスーパースターだ」と実感したのを覚えている。(城島徹)

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