65歳から始めたメディアサイト制作 電子出版に挑む(下)最後は超楽観、「負けね〜ぞぉ」

 今回、初めて電子書籍化した「シニアになったら、ハロワに行こう!」は、シニアライター釜島辺の「求職セミナー体験記」と題して2022年9月から2023年4月末まで「From to ZERO」のサイトで掲載しました。合計18本となる大作です。著者の元新聞記者、釜島辺(ペンネーム)が勤めていた新聞社を退社した後、公共職業安定所(ハローワーク)を通じて求職活動する体験記です。

サイト掲載時から反響が広がる

 私も含め65歳以上のみなさんが入社した頃は、まだ定年まで働くのが当たり前という終身雇用制度が定着していました。といっても転職や退職する同僚は居ましたし、一度ならずとも会社を辞めようかと思いつめる時は誰しもが経験しているはずです。その時にふと思い浮かぶのが「職安」。いつかはお世話になると思いながらも、実際には転職や退職しないかぎり、縁遠い存在です。ハローワークという愛称を切り替えたのも、ちょっと暗めの「職安」というイメージを改め、気楽に利用できる雰囲気に切り替えるのが狙いでした。

職安、ハロワは響くキーワード

 「職安」、あるいは「ハローワーク」は、定年間近の会社員には複雑、かつ直接響くキーワードだったようです。回を重ねるごとに読者が広がり、この小さなサイトでありながら確かな手応えを確信しました。当然、書籍化が頭をよぎりますが、百万円単位の資金が必要です。書店には多くの本が並んでいますが、実際に売れるのはマンガか、人生を切り開くノウハウをアドバイスする本。とりわけ電子書籍はその傾向が強い。この小さいサイトで良い感触を得たからといって、売れる保証はどこにもありません。個人にとってリスクが大きすぎます。

 「電子書籍というアイデアもあるよ」と釜島辺の友人からアドバイスが届いた時も、最初は首を傾げました。電子書籍はAmazonや楽天などを利用していましたが、どの程度の資金負担や手間がかかるのかも全くわかりません。著作権や販売手数料など不慣れが事務作業が待ち構えており、こちらも面倒でした。

 それでも、せっかくのアドバイスです。電子書籍を手掛ける会社を紹介してもらい、ざっくりした概要を訊くことにしました。

電子書籍でリスクを抑える

 電子書籍の歴史や現在の普及度合いなどを聴きながら、電車に乗っているとみんなスマホやタブレットでマンガやネットメディアを読んでいる風景を思い出します。昭和の頃は満員の通勤電車の中で新聞や雑誌を広げて、隣の人から邪険にされましたが、今は電車で新聞を読んでいる人はいません。

 もっとも、時代の流れ、変化と理解しても電子書籍にすぐ飛びつく気持ちになりません。まず内容がシニア向け。スマホやタブレットよりは紙の書籍の方が良いのではないか。昭和の風景がなかなか消えません。よく通う市立図書館を見ても、電子図書館を利用できますという告知が増えましたが、シニアの利用者はやはり紙の書籍がまだ主役。

編集作業はWordPressの感覚で

 そして、電子書籍の編集作業。サイトに掲載している原稿を利用するので、紙の書籍を電子化する手間は不要ですが、編集作業できる人手は著者と私の2人だけ。どの程度の負担なのかを質疑応答で確認すると、電子書籍の編集ソフトは日頃使っているWordPressの考え方を踏襲しているようです。新たに覚える技術的な知識と経験はそう多くなさそうです。なにより編集ソフトの利用費が思ったよりも高くなく、発刊までの費用は10万円以内に抑えられそう。なんとか電子書籍一冊を発刊できるかも。そんな気がしてきました。

 なによりも「何事も勉強、そしてまずは経験」。サイト制作を始めた時の初心を改めて思い出し、電子書籍に挑むことにしました。とにかく最初の挑戦です。書籍化の費用はデジタルメディア時代の授業料と割り切り、万が一ヒットすれば利益となって還ってきます。噂には聞いていましたが、新しいことをする時は損することは考えないものです。真実でした。

 編集作業はサイトで掲載した原稿を利用するとはいえ、そのままコピペするわけにはいきません。著者と一緒に全面的に見直し、書籍のレイアウトや使用する写真、イラストを考えます。

 意外に手間だったのは文字の変換。サイトは横書きですが、書籍は縦書き。原稿の数字やアルファベットなどを横書きから縦書きへ変換するのがたいへん。修正箇所が多く、一つでも見落とせば不格好な文章になってしまいます。編集ソフトで整えた後、書籍のページがどういう風に読者の皆さんに映るのかも今ひとつ想像できません。新聞編集と違って、最終仕上がりが見えない不安が最後まで消えませんでした。

作業開始からほぼ1ヶ月でめどが

 電子書籍サービスの会社とのやりとりを繰り返し、編集作業を開始してからほぼ1ヶ月でめどがつきました。初めてということもあって、書籍の表紙デザインなどの装丁で手間取りましたが、それでも早いです。発売までは2ヶ月かかりません。釜島辺シリーズを掲載し始めた2022年9月から数えれば、10ヶ月で一冊の電子書籍が完成したのです。

 「From to ZERO」サイトには多くの記事が蓄積されています。言い換えれば、読者の目に触れず、埋没したままの記事がかなりあります。加筆・手直しする作業は必要ですから安易な書籍化は絶対に避けますが、サイト掲載と並行しながら、記事を電子書籍化する感触は得られました。電子書籍にすればアマゾンなど訴求力が強いメディアに一応、掲載されます。売れる保証は全くないのは百も承知していますが、小さなサイトが発信力を高めるためには、電子書籍との相乗効果もありではないか。希望はあります。

「負けねえ〜ぞぉ」の叫び声を忘れずに

 「負けねえ〜ぞぉ」。ほぼ毎日通うジムで、そばでトレーニングするボディービルダーが時々、重いダンベルを持ちながら叫んでいました。あの叫び声を忘れずに、サイトと電子書籍を両手に持って挑戦し続けるつもりです。次の電子書籍もすでに作業を開始しています。失敗もあるかもしれませんが、いつかは成功するはずです(笑)。

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