世界の富を産む街を歩く ボーイング、MS、アマゾン、スタバ、ホームレス 

 米国西海岸のシアトル。もう少し北上すればカナダ・バンクーバーにも手が届きそうな都市です。地球儀で見ると日本と米国を最短距離で結ぶ大圏コース上にあり、明治以来、日本と北米を結ぶ北太平洋航路の要所です。新聞記者時代、取材で日本郵船など海運や商社の方と話していると、「シアトルは良いところ」と異口同音に話す街。野球ファンなら、「イチロー」が大活躍した「マリナーズ」のホームとして知っているでしょうね。以前から一度は訪ねてみたい街でした。

パイク・プレイス・マーケット

日本郵船など北太平洋航路の拠点

 最近は、マイクロソフト(MS)、アマゾン、スターバックスなど世界的な優良企業が本社を構えている都市として有名です。宇宙・航空機メーカーのボーイングにとっても発祥の地。本社は2001年に本社をシカゴに移しましたが、B787など主力機を生産する工場があります。いずれも、それぞれの産業で世界トップクラスの企業規模。世界経済を動かす巨万の富を産み続けています。これだけの世界企業がひとつの街に集まっているのです。ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルスとは違うどんな空気があるのか。一度は本物のシアトルの空気を吸ってみたいので、街を歩き回ってみました。何回かに分けてお伝えします。

マーケットの魚屋さん

シアトルの「築地場外市場」へ

 まずはシアトルの中心部、観光地として有名な「パイク・プレイス・マーケット」を目指します。東京の「築地場外市場」みたい場所です。豊富な漁業資源が目の前にあるだけに、店頭にはサーモン、カニ、ロブスターなどがずらりと並ぶ魚屋さんが連なります。マーケットのエリアはそんなに広くないので、観光客目当てのお花屋さん、チョコレートなどのスイーツのお店、お土産店、レストランもギュッと押し詰められ、ちょっとした迷路に。狭い通路に多くの観光客がぶつかり合いながら歩き回る風景は、まるで築地の場外市場とそっくり。漁港で育った自分からすると、親しみ馴染んだ空間です。

 花屋さんから道路を挟んだ街区に観光客が一列に並んでいる店がありました。「なんだろう」と見たら、スターバックスの1号店。ハワード・シュルツが若い時に働いていたコーヒー店を買収して、世界的コーヒーチェーンに成長させましたが、1号店は看板も店内もよくある街の喫茶店の雰囲気。1号店でしか買えないグッズがあるそうですが、多くの人が立って待っており、とても店内に入る気持ちは湧きませんでした。

スターバックス1号店

アマゾンの存在感があちこちに

 シアトルは人口70万人を超え、都市圏でみると400万人にも膨らむそうです。世界的な企業を輩出していますが、現在はアマゾンの存在感が突出していました。ネット販売で世界をリードしているだけに、グーグルなど情報技術関連の企業も市内に拠点を構え、地域経済を押し上げています。アマゾンが展開している無人のコンビニ店舗「amazon go(アマゾン・ゴー)」もよく見かけますし、そのすぐ横にはアマゾンの本社がありました。スタバも「街区の角を曲がればここにも」といった感じでお店を開いており、さすが創業の地は違います。

amazon go

アマゾンの社屋そばにある植物園

 本社のそばにはドーム状の透明なガラスで構成された植物園がありました。ドーム状の建物は大好きな設計・建物なので入りたいと思い、気軽に入り口に向かったら、玄関脇のスタッフに「社員のIDを持っているか」と聞かれ、「えっ」。そのまま受付に向かったら「予約などをしていなければ、社員関係者以外は入園できない」と断られてしまいました。

 せっかくシアトル市内の中心部に透明なドーム状の植物園を造ったのに・・・。しょせん、アマゾンの企業イメージ刷新の一環なのか。勿体無い。米国ではアマゾンは安価な労働力を使い、ネットビジネスを拡大したブラック企業と盛んに批判されています。何も知らずに訪れた観光客が稚拙だったのはわかっていますが、透明な建物、豊富な植物を使って開放感ある企業をアピールし、地球環境、人権などに十分に配慮しているという経営姿勢を示しているのに・・・。ちょっと残念。

アマゾン・ドーム内の展示品

植物園のそばで「グラス」を求めるホームレスが

 受付のスタッフに隣のドームは誰でも入館できると言われたので、せっかくだから向かいました。アート作品などが展示されており、植物園に比べて力の入り方が大違い。ここはトイレ休憩と思い直して、裏手にあるトイレに向かったら、通路の壁に男女兼用のトイレ表示「ALL GENDER」がありました。性別などを問わないのが常識になり始めている時代です。日本の公衆トイレで「誰でも使えるトイレ」という表示が増えているので、驚きはしませんでしたが、なぜか目に焼き付き離れない映像でした。

アマゾンのトイレ表示

 アマゾンから歩き続けると、道路上にホームレスの人々が意外に多いことに気づきました。世界企業の本社や工場が集まり、高所得層が多く、異口同音に美しい街と聞いていたので、あまりの多さに驚きました。

 5〜10人程度のグループで集まり、雑談しています。1人の女性がおぼつかない足取りで傍らの男性に話しかけている声が聞こえました。「グラス、グラス」。grass、大麻を意味する英語です。彼女の横を通り過ぎる時、甘い香りが漂っていました。タバコとは明らかに違います。

 アマゾンの近未来的な植物園を通り過ぎてきたばかりです。ホームレスは同じ植物でも大麻を意味するグラスを探し求めている。「大麻を買う金は持っているのか」と妙な疑問を抱きながらも、アマゾンとホームレスがすぐそばで「植物」を手がかりに存在感をアピールする現実に呆然としましました。

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