南太平洋14「新しい枠組み」②太平洋は仲良しクラブ?利害の相克が当たり前
太平洋諸島フォーラムが久しぶりに脚光を浴びました。中国が南シナ海や南太平洋で経済・軍事の安全保障面から存在感を強めているため、米国などが再び島嶼国の囲い込みを急いでいるからです。この流れを受けて2022年7月にフィジーの首都スバで開催したフォーラムでは、安全保障などの決定事項については事前にフォーラム加盟国と協議することに一致しました。3ヶ月前の4月にソロモン諸島が中国と安全保障協定を結んだことを念頭に、他の島嶼国が中国と安全保障面での新たな協定締結に動かないよう牽制する狙いが込められています。
経済・安保に足並みの乱れは当然
フォーラムは対外的に「一致」を強調していますが、その舞台裏はいつも以上にごたごたしたようです。開催直前にキリバスが事務局長選挙での”違反”を理由に脱退を表明したためで、欧米や日本のメディアはキリバスの判断には中国政府の影響が及んでおり、島嶼国の足並みの乱れを今後の懸念材料として指摘する向きもありました。
この論調にはちょっと首を傾げざるを得ません。経済と安全保障を巡る地域連携では参加国の利害が衝突するのは当然のことです。すぐ隣の東南アジアを例に眺めればすぐにわかります。太平洋の島嶼国だけがいつも穏便に進むわけではありません。今回はロシアがウクライナ侵攻した後も、中国が安保問題を絡めた外交攻勢を一段と強めている状況を踏まえなければいけませんが、太平洋の島嶼国が中国の言いなりにすぐになると思い込むのは大いなる勘違いです。だからといって、米国やオーストラリア、日本に対していつも好意的かというそんなことはありません。前回も書きましたが、南太平洋には何千年にも及ぶ歴史と文明、文化を育んだ誇り高き民族が住んでいるのですから。
太平洋諸島フォーラムは1971年8月、南太平洋フォーラムとして創設され、2000年10月に現在の名称に変わりました。島嶼国のほかオーストラリアやニュージーランドなど16カ国・2地域が加盟しています。日本や米国はオーストラリアなどとともに経済支援を軸に深く関与しており、各国首脳が参加する第1回太平洋・島サミットを東京で開催しています。
足並みの乱れが指摘されるきっかけとなった背景には地域問題があります。太平洋の島嶼国はメラネシア、ポリネシア、ミクロネシアの3つの地域に分かれています。太平洋諸島フォーラムでも事務局長は3地域が輪番制で選出する「約束」が前提となっていたのですが、2021年の事務局長選では次の順番であるメラネシア出身者が敗れ、ポリネシア出身者が二期連続して就任。メラネシアの5カ国が反発し、脱退騒ぎが起こりました。2022年に入ってポリネシア出身の事務局長が退任し、代わってメラネシア出身者が輪番通りに就任する手筈となりました。そこへメラネシア地域のキリバスが脱退表明です。
中国の外交攻勢はもう何十年も前から
もちろん、中国の島嶼国への外交・経済攻勢もあります。前回の「西サモア 」でも書きましたが、もう30年以上も前から中国は多方面の経済援助を展開しています。島嶼国の多くが台湾を支持しており、台湾との”断交”を促すの最大の狙いですが、南シナ海に続いて南太平洋への布石として位置付けています。
太平洋の島嶼国はキャプテン・クックを例に出すまでもなく長らく欧州の植民地として支配され、その後も米国や日本などが統治していました。第二次世界大戦後も、経済的な自立が難しく多くの経済援助が国を支えているのが現状です。しかも、太平洋諸島フォーラムの事務局があるフィジーをみても、経済面でインド出身者が強い影響力を握り、民族的な争いやクーデターが繰り返されるなど内政面でも揺れている時期を経験しています。日本やオーストラリア、米国は経済・政治面の安定を目指して支援し続けていますが、中国は島嶼国に生まれる隙を突くかのように外交戦略を展開しています。
長年続けた経済援助を改めて見直す時
身勝手な見方との批判を受けるかもしれませんが、日本やオーストラリア、米国は太平洋の島嶼国への援助を通じて、それぞれの事情を熟知しています。にもかかわらず中国が入り込む隙を埋めることができない。安保協定を結んだソロモン諸島、親中国とみられるキリバスにはそれぞれ国の事情があるとはいえ、日本などが他の地域に比べて太平洋を軽視していたツケととらえることができます。
日本は米国、オーストラリア、インドとともに太平洋の安全保障戦略としてQUADを創設しました。2022年の太平洋諸島フォーラムはQUADに勝るとも劣らない覚悟を持って太平洋の島嶼国と連携する戦略とはなにかを考えろと背中を押してくれたと考えたいです。