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AI碁から生成AIへ なぜ日本は翔べなかったのか 最先端の「追っかけ」脱却を

 2016年3月15日、人工知能(AI)が囲碁の勝負で人間を圧倒した日です。グーグルの子会社ディープマインドが開発した囲碁ソフト「アルファ碁」が世界トップクラスの韓国のプロ棋士と対決し、4勝1敗と圧勝しました。囲碁はとても身近な存在だけに、日本でも衝撃的なニュースとして伝わりました。将棋を上回る指手数から人工知能が囲碁で人間に勝つのは「あと10年は必要。まだ先」と言われていましたから、人工知能の進化スピードは予想を上回っていると誰もが痛感した日でした。

アルファ碁が勝利したのは7年前

 アルファ碁の勝利に閃いた起業家が米国にいました。リード・ホフマン氏。1990年代はアップルに勤め、電子決済サービスのペイパル、リンクトインやフェイスブックなどSNSの創業に深く関わります。

 彼はアルファ碁の圧勝をどう感じたのか。最近のタイム誌のインタビューで「以前の人工知能とは異なり、新たな産業を動かし、世界を動かすきっかけを創り出す力を感じた」と当時の胸中を明らかにしています。人工知能を次の偉大な技術革命と信じて、数億ドル、過去2年間は全て人工知能に投資しています。オープンAIにも投資しており、「今、津波が広がるように誰もが行なっている引き金になる」と確信したそうです。

 そのアルファ碁を開発したディープマインドのCEOを務めるデミス・ハサビス氏もタイム誌に登場しており、「ジェミニ」と呼ぶ大規模な人工知能モデルを開発、オープンAIの「GPT-4」を上回る能力の創造に取り組んでいることを明らかにしています。彼は、人類が直面するであろうリスクの精査を前提にしながら「科学の進歩を解き放ち、世界をより良い方向に再構築できる」と考えています。

起業家も技術者もAIの未来へひた走る

 長年、抱いてた素朴な疑問が最近のタイム誌に掲載されたインタビューを読んで、ちょっと解けました。人類が初めて経験する大きなリスクが待ち構えているかもしれないが、その未来を確信して巨額投資するベンチャーキャピタリスト、人類の未来をさらに切り開く力を創造できると信じて疑わない技術者がそれぞれ存在しています。まるで宇宙の真実を知る神の如く振る舞う信念を持っているのです。後から加えた講釈、結果論と思われるかもしれませんが、改めて米国シリコンバレーが創造し続けるイノベーションの源流をしっかりと見た思いでした。

 日本の人工知能研究は決して出遅れているとは思っていません。アルファ碁に勝利した直後、日本を代表する人工知能研究者の松尾豊東京大学大学院工学系研究科准教授(当時)は、「とても驚いた」と話しながらも、人工知能の急速な進化の鍵を握るディープラーニングの認識技術について語っています。これからどんな挑戦が待ち受け、ブレイクスルーに必要な事案すべてを松尾さんはじめ多くの研究者はわかっていたはずです。

 アルファ碁が勝利を収めた7年後の2023年、生成AIと呼ばれるChat GPTは人気ゲームのように至る所で利用され、多くの企業がビジネスで使うニュースが相次いでおり、直近でもソフトバンクグループの孫正義さんは人工知能が築き上げる未来に自らの未来を重ね合わせるスピーチを披露しています。日本政府も人工知能の研究・事業化を次世代の経済成長の原動力にすると連呼しています。

 しかし、日本はまだ米国の人工知能研究を追いかける立場にいます。

リスクを恐れる日本

 果たして日本が人工知能で世界を主導する日は訪れるのでしょうか。人工知能がまるでブームのように熱く語られる舞台裏を覗くと、その実態は企業も政府もシリコンバレー発の最先端の技術、アイデアを追い回し、日本流に提灯の面に描いてパレードする風景に見えて仕方がありません。

 みなさん、熱く語るものの、先頭を切ってリスクを取る勇気と自信はありませんでした。リスクを恐れず海に飛び込む、いわゆる「ファーストペンギン」は日本にいなかった。だから、米国の後塵を拝する結果になったのではないでしょうか。結論を言えば、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストや技術者・経営者は誰もがビビるリスクを取る経験値と自信に溢れていますが、日本は皆無なのです。

 この橋を渡れば目指すゴールがあるとわかっていても、石橋を叩いて渡るのが日本です。独りでわたる自信がない時は、みんなが渡らないと前進しません。米国と日本の間には太平洋よりも広く、次の一手にも迷ってしまう盤面が存在しているようです。

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