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自動車産業が消える①EV、インターネット、人工知能がエンジン部品の存亡を突きつける

 自動車部品の4割近くが脱落する可能性も

 2035年、日本の自動車産業はどのような姿に変わって存続しているのでしょうか。政府は2035年をめどに販売する新車を電動化する方針を示しており、以後ガソリンやディーゼルだけを燃料とする内燃機関エンジンを搭載する車は販売できません。エンジンが不要となれば、関連する自動車部品も消えます。多くの部品メーカーが経営が危機に追い込まれるのでしょうか。電気自動車(EV)の時代になっても生き残る会社はどこか。

 2035年以降、販売できる車は、電気モーターで駆動力を得る電気自動車(EV)、エンジンと電気モーター両方を利用するハイブリッド車、水素を燃料とする燃料電池車だけ。

自工会会長は550万人の雇用を訴える

 政府がカーボンニュートラル戦略を公表した直後、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は2021年1月、「550万人の雇用をどう守るか」を訴えました。550万人という数字には自動車製造のみならずトラックやバスの輸送などに携わる業種も含めており、ちょっと風呂敷を広げ過ぎですが、この試算に基づけば日本の勤労者10人のうち1人は、自動車関連になります。欧米各国並みにすべてEVに全て切り替われば、大きな雇用問題に発展するのは確実です。 

 豊田会長は「国に収めている税金は15兆円」「経済波及効果は2・5倍」と政府に対し自動車産業の存在の大きさを強調するのも、危機感の表れです。EVやハイブリッド車などの新車販売は、軽も加えても全体のまだ3割程度。2035年までにEVが急増するとはいえ、5割に達するかどうか。2035年を待たずにエンジン車の生産が大幅に縮小するとなると、日本の自動車産業を支える部品メーカーは生き残れるのか、誰もが不安になります。自動車生産がエンジン車からEVへ転換した場合の影響力はどの程度になるのか。

自動車部品は17兆円

 日本自動車部品工業会の出荷統計によると、会員370社のうち324社の回答で2020年度は17兆円。より零細企業を含めた東京商工リサーチの調べは6000社近くを集計しており、2021年度で27兆5000億円。ここ2年間はコロナ禍や半導体不足の打撃を受けて減収に追い込まれいるので、平常時は30兆円規模と見て良いはず。

 この数字に36%を掛け合わせると、10兆円を超えます。打撃はかなり大きい。しかも、売上高5億円未満は全体の7割近くも占め、売上高100億円以上は5%強しかいません。EVへの切り替えがまともに直撃すれば、新規分野に手を広げる余裕がない中堅·中小企業は苦境に追い込まれ、自動車生産を支える裾野の大半が吹き飛ぶ恐れがあります。

 エンジンからEVへ移行すると消える可能性が高い部品は、エンジンブロック·エンジンヘッド·クランクシャフト·吸排気装置等のエンジン部品、トランスミッション·燃料タンク等の駆動·伝導および操縦装置部品など。企業信用調査会社の東京商工リサーチの試算によると、自動車部品の国内出荷金額のうち36%程度占めるとみています。

ピストンリング大手2社が経営統合へ

 その予兆といえるのが2022年7月に発表したリケンと日本ピストリングの経営統合です。両社は内燃エンジンの重要部品である「ピストンリング」を生産しており、リケンは業界2位、日本ピストンリングは3位。しかも長年、しのぎを削ってきたライバル同士。

 ピストリングはエンジンの爆発力を車輪に伝えるピストンに装着する重要部品。EVに切り替わり、エンジンが不要になれば真っ先に消える部品です。将来の生き残りを考えたら、ライバルかどうかは問題にはならないと判断しました。両社が経営統合すれば、世界シェアが30%に手が届きます。生き残りの道が拓くはず。

 ただ、独占禁止法の審査が延び、経営統合の時期が見えていません。7月発表時は2023年春の経営統合を想定していました。ピストンリングメーカーはリケン、日本ピストンリングのほかはシェアトップのTPRだけ。公正取引委員会の審査が予想よりも延び、2022年11月に統合時期は未定と発表しています。

業種を超えての再編は続く

 しかし、経営統合が消えることはありません。ピストンリングそのものの将来は見えません。経営統合の見送りは自社の未来の道筋を消すことになります。

 EV時代は単にガソリン車から電気自動車へ切り替わることを意味していません。インターネットを介した情報技術の活用が加速し、人工知能が人間の代わりに運転などを担います。自動車部品の枠を超えて自動車の進化はスタートダッシュしたばかりです。

 自動車部品の再編劇はまだ開幕しただけ。今後、部品、業種、産業の枠に捉われない提携、経営統合が相次ぐのは確実です。

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