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日本の軽EVが世界を疾走する日 欧州の超小型EV普及が「ガラパゴス」を解き放つ

 日本の軽EV(電気自動車)が世界を疾走する。そんな予感を覚えるうれしいニュースが飛び込んできました。全長3・4メートル以下の軽は日本独自の規格。市場は日本国内に限られ、ガラパゴス状態でした。しかし、EVの本格普及をきっかけに日本独自の制約を解かれ、欧州を中心に世界市場へ飛翔するチャンスが目の間に広がってきました。

全長4・2メートル以下のEVに優遇措置

 欧州連合(EU)は12月、2035年を目標としたエンジン車生産禁止を修正し、ハイブリッド車などの継続を認めましたが、引き続き域内のEV生産とCO2の排出抑制を後押しするため、全長4・2メートル以下のEVに対し排出権取引の優遇措置「スーパークレジット」を設定したのです。EC域内で生産すれば、「スーパークレジット」と呼ぶ恩典を通常のEVよりも1・3倍も付与するというのです。

 クレジットとはEUで定着しているCO2など温室効果ガスを削減する排出権取引制度で使われ、金銭と同じ考え方で売買されています。排出権取引はあらかじめ排出量の上限枠を設定しており、排出枠を超過した企業が排出枠に余力がある企業から残った排出権をクレジットを使って購入します。超過した企業はクレジットによって超過分を相殺し、数字上で排出削減を達成するのです。

 温室効果ガスを大量に排出する自動車メーカーにとって、排出権取引のクレジットはとても重要です。EUはエンジン車の全面禁止を修正したとはいえ、2050年までにCO2など温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を変えていません。自動車メーカーは実質ゼロを達成するためにはクレジットを大量に保有する必要があります。その保有量を増やすためにも全長4・2メートルのEV開発は必須になるのです。

仏やイタリアが強いが、日本も

 全長4・2メートル以下は超小型車と呼んでも良いサイズ。フランスやイタリアが得意とする車のカテゴリーで、ルノーやステランティスなどがEUの欧州委員会に優遇措置の新設を働きかけていたというのも頷けます。超小型車だけにエネルギー消費量も少なく、狭い路地が多い欧州の主要都市では市民の足として定着しています。使い勝手を考えれば、超小型EVは普及を加速するためにも相応しい車種です。

 全長4・2メートル以下の超小型車は今さら説明するまでもなく日本が最も強い車種です。各社ともすでに4・2メートル程度のEVを開発しており、投入計画もまとめています。

 当然、延長線上に全長3・4メートル以下の軽規格があります。小回りなど優れた走行性能、使い勝手の良さから日本の新車市場の4割を占めるほど実力を備えた超小型車に仕上がっています。熟成した軽の経験をEVに注入して欧州市場を攻め込む。誰もが考えるはずです。

 すでに日本車メーカーは軽EVに注力しています。例えばホンダ。「Super-ONE」のプロトタイプを公表しており、2026年から日本を皮切りに英国やアジアなどで発売する計画です。日産自動車や三菱自動車は日本国内で大ヒットさせていますし、スズキやダイハツ工業もトヨタ自動車などと共に開発し以下、発売する予定です。

 優遇措置の前提に域内の現地生産がありますが、日本の欧州生産は歴史があり、問題はないでしょう。生産ラインの変更など新たな投資が加わりますが、現地工場のエンジン車からEVへ切り替えは想定済みです。

 ついでながら、BYDが日本向けに軽自動車のEVを開発する狙いもわかりました。世界市場を相手に攻め込むBYDにメリットはどこまであるのか疑問でしたが、日本市場で高い評価を得れば、欧州市場の超小型EVで旋風を巻き起こすことができます。

 2026年の超小型EVは欧州を中心にかなりの激戦が繰り広げられるはずです。

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