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BYD 最大の脅威は日本に切り込む爆熱の販売力 日本車メーカーを蹴散らす破壊力に

「BYDは日本にフルコミットしていきます」。米テスラを抜き去り、世界最大の電気自動車(EV)メーカーに駆け上がったBYDの強さは、アジア太平洋の自動車販売の総経理を務める日本法人劉学亮社長が連呼した雄叫びに尽きます。

「フルコミットしていきます」

 劉社長は10月29日、ジャパンモビリティー・ショーで開催したメディア向け発表会に登場するなり、テンションはもう100%に達していました。なにしろ、登場前に大画面で流れた映像が大音量のダンスミュージックをBGMに、BYDの開発や生産、販売のみならずEVとして世界最高速の時速500キロ近くを記録した最高級スポーツカー「仰望」を紹介した直後。モーターショーの会場というよりは、華やかな「クラブ」の熱気が充満。BYDブースを囲む人数も他の日本車メーカーを遥かに超えていました。

 劉社長は開口一番、「みなさん、こんにちは!!」。続けて「2年前に同じ時期に同じ場所に初めて日本に立ちました。(中略)商用車、乗用車をひとつにして再び、この素晴らしい東京に帰ってきました」と力強く語ります。さらにBYDが創業した30年前から地球の環境保護に欠かせない新エネルギーを開発するイノベーションに取り組み、「地球の温度を1度下げる」ことに邁進したと強調します。

爆熱の営業トーク

 ここから先は、もう新車販売の営業トークにまっしぐら。世界販売は1400万台を超え、1月から9月までにEVの世界販売は世界1位の座に上り詰めたと誇示。日本でもこの20年間で積み上げたバス、トラックなど商用車の実績、さらに昨年から始めた乗用車販売を紹介するとともに、劉社長が日本全国を回って軽自動車が日本の国民車として普及している実情を肌で体感、日本に根付くためには「軽EV」の開発が避けて通れないと痛感した思いを明かします。

 もっとも、「ラッコ」と命名した軽EVはまだ完成していません。100台超の試作車を開発して衝突や走行、充電などの実験を繰り返している最中です。日本の軽を参考に車高が高いボディにスライドドアなどを装備しますが、こちらも最終仕上げに入っていません。発売時期は来年夏ごとといわれていますが、モデルの詳細は未公表です。

 それでも、劉社長の熱気は販売寸前の勢いを発散します。BYDブースを囲む数千人の記者や自動車関係者も、BYDの軽EVが日本市場でどの程度、暴れ回るのかに注目しており、軽EVの諸元などよりもBYDがどのようなマーケティングを展開するのかのヒントを探しています。

 BYDは想像を超える脅威。今や、世界の自動車メーカーの常識。ここ2年間をみても、欧州市場を中心に欧米メーカーを蹴散らすという表現がぴったりと思うほど席巻。欧州のEVが敵わない割安な小型車を投入する一方、ドイツメーカーから優秀な技術者をスカウトして「ベンツやアウディの車?」と勘違いするデザインと走行能力を兼ね備えた上級車を開発してきました。世界最高速を記録した「仰望」もイタリアの高級自動車アルファ・ロメオからスカウトした技術者が開発しました。「欧州車をコピーしている」と揶揄する声は、世界一の座についたBYDにとって雑音にしか聞こえないでしょう。

 販売力はテスラも尻込む剛腕ぶり。世界で証明済みです。中国車や韓国車が売れない日本市場でも高い人気を集める女優を起用したテレビCMなどで盛んに知名度を上げるとともに、全国の販売網を広げ、販売実績を積み上げています。

米車や韓国車の苦戦をエネルギーに

 BYDの軽EVは未知数が多く、売れ行きなど今後の予想がつきません。しかし、確実に言えるのは、BYDの爆熱ともいえる日本市場に注ぐ気迫の強さを見逃すわけにはいきません。日本の軽がBYDと価格や走行機能など競争できるかどうかは二の次です。

 1980年代からGMやフォード、韓国の現代自動車などが日本で苦戦する様子を見てきました。BYDも苦戦するかもしれませんが、その苦戦をエネルギーに変える覚悟はこれまでの米車や韓国車にみられなかったものです。

「BYDは日本にフルコミットする」。太陽光、半導体などで中国製が世界市場で大きな存在感を占め、価格主導権を握る実績を考えれば、BYDの破壊力が日本車メーカーの何社かを吹き飛ばしてしまう日が訪れるのではないでしょうか。

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