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カルビーのChange(下)持ち味は折れない軽さ 企業買収が新たな成長力を揚げる

 カルビーが成長を停滞している理由をみると、電気自動車(EV)への転身を迫られる自動車産業を彷彿させます。

EVへの転身を迫られる自動車を彷彿

 「Change」を掲げた成長戦略で指摘する自らの課題として

①新たな価値の創出による付加価値の向上が進まず、廉価販売や量的な販売拡大に頼る戦略から脱却できなかった。

②経営資源の配分が国内に偏重し、新たな成長領域への投下が不足していた。

③組織・仕事が守り・内向きになっており、変化への対応力が弱く、変革を実行する事業基盤や仕組みが不足していた。

以上、3点を挙げています。

カルビーの2030年に向けた成長戦略はこちら参照できます。

https://www.calbee.co.jp/ir/management/vision/

 自動車産業も欧米や中国などで成長するEVへの急速な対応が迫られています。地球温暖化を阻止するためにもEVシフトは避けられないとわかっているものの、内燃機関のエンジン車で世界市場を駆け巡った成功体験を無視するわけにはいきません。

 日本国内の自動車市場は充電設備などEV普及へインフラ整備が遅れていることもあって、人気は今ひとつ盛り上がず、若者のクルマ離れにコロナ禍が加わり、国内市場の成長力は失速しています。カルビー同様、先行きの成長に上限となる「天井」が待ち構えています。しかもエンジンからEVへシフトすれば、エンジン関連の部品メーカーは仕事を失い、日本経済に大きな打撃を与える恐れもあります。

営業・生産の現場が内向きになるのは当然

 これだけの難問を前にして、現場が大胆な判断をできるでしょうか。経営トップが決断しない限り、足踏みするしかありません。組織は守りを重視する内向きといわれても反論できないしょう。

 カルビーも同じ。欧米流の経営に詳しいトップを起用して目の前の難題に立ち向かっていますが、営業・生産の現場に率先して変革に向かう姿勢を期待するのはどうか。経営トップと現場に距離が生まれてしまっては元も子ありません。

 カルビーは国内依存が高い自らの弱点を修正するため、この10年間で海外売上高を26%まで高めています。海外現地生産が進展している自動車産業と単純比較はできませんが、海外売り上げを伸ばすのが最大の目的となってしまい、収益の柱としてはまだ力不足のようです。こちらも海外事業拡大の過程でハマる罠の一つです。

新たなブランド創出が急務

 カルビーのような少数精鋭のブランドで成長してきた企業が息を吹き返す切り札は、国内外で強いブランドを新たに育てるしかありません。幅広客層を狙って商品を幅広く揃えたとしても、開発やマーケティングで経営資源が分散してしまい、「アブ蜂取らず」に終わります。

 その強いブランドとして期待するのが「じゃがりこ」。国内のみならずアジアでも欧米でも人気ブランドに育っているからです。世界に通用するブランド商品に育て、その牽引力を支えに「かっぱえびせん」「フルグラ」など他の商品の底上げも狙う作戦です。

過去の成功体験をいかに捨てるか

 今回の成長戦略で見逃せないのがカルビーが率直に反省している点です。商品力に自信を持っていただけに、成長の停滞を招いた背景には「マーケットイン発想に欠けていた」と振り返ります。言い換えれば購入層のニーズを見落としていたわけです。スナック菓子を扱うメーカーとしてはちょっと致命的です。

 わざわざ「卸売業との戦略的パートナーシップを強化してまいります」との下りを加えているぐらいですから、これまでのカルビーの営業現場はよっぽど強かったのでしょう。ポテトチップス、じゃがりこなど人気商品を店舗ごとに割り振るのが主な仕事なってしましまい、それでも売り上げが伸びていた時代があったのかもしれません。大ヒットを飛ばしたメーカーが陥る落とし穴です。

新たな企業買収が試金石に

 カルビーの今後の成長を占う視点は、企業買収だと考えます。2018年、英国のシーブルック・クリスプスを買収しました。主力商品「ハーベスト・スナップス」は、北米市場の開拓の先兵役を果たしているようです。原料の豆の素材感と味を生かしたコンセプトは、米国・オーストラリア市場で人気を集めていると説明しています。

 カルビーは他の成長戦略として「アグリビジネス」「食と健康」「組織など経営改革」も掲げていますが、主軸の「商品開発」「営業・生産」に本来の強さが戻らなければ経営を支える柱にはなりません。

 企業買収を占う視点とみるのは、変革に対する覚悟が試されるからです。海外の企業買収によってポテトチップスや「じゃがりこ」とは異なるマーケティング、生産などを国内外で展開する中、従来惰性で通用していた経営戦略の不備、現場の意識が炙り出されます。企業買収を成功させる過程そのものが、新たなカルビーを創造するのです。あくまでも推察ですが、海外の食品会社の買収を検討しているはずです。

ポテチの袋の軽さこそカルビーの底力

 ポテトチップスが詰まった袋を持ってみてください。カルビーの底力を実感できます。片手でポンと風船のように跳ね上がるぐらい軽い。この軽さに誰も真似できない味付け、製造技術などが詰め込まれ、膨大な企業価値が創造されています。

 だからこそ、カルビーの経営変革はその強さである軽いフットワークが命運を握っています。組織と意識を刷新する一方、海外の食品メーカーを取り込み、躍動力を新たな成長エネルギーとして燃焼できるか。経営トップが変わっただけでは、経営変革は宙に浮くだけです。

 2030年に向けたChangeの成否を握る「軽さ」、この一点を見つめるだけで良いのではないでしょうか。

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