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カルビーのChange(上) 日本の経営課題を体現  強さが弱さを招く

 カルビーが2030年に向けた成長戦略を発表しました。今年2023年から25年までを「Change2025」と名付け、構造改革に挑みます。カルビーは誰もが知っている最強ブランドのひとつ。そのカルビーが収益が低迷し始めた現況を打開する姿は、足踏みが続く日本経済の課題も体現しています。

最強ブランドはなぜ足踏みをし始めたのか

 まず経営の状況から。2022年3月期の売上高は2780億円、連結営業利益は251億円。売上高は毎年着実に伸びていますが、この10年間を振り返ると利益率は低下しています。11年3月期から上昇していた連結営業利益率は17年3月期の11・4%をピークに下降し、22年3月期は9・0%。他社他業種と比べたらコロナ禍など経済情勢の影響もあり、そう悪くないかなと思いますが、少数精鋭の商品群とマーケティングで稼ぐビジネスモデルを掲げてきたカルビーに対し、警鐘が鳴っていると捉えるのは至極当たり前です。

 なにしろカルビーの強みはなんといってもスナック菓子市場の国内シェア。 2021年3月期でみると、スナック菓子全体でシェアは54%と過半を超え、このうちポテトスナックは75%。抜群のブランド力を見せつけます。健康志向を追い風を受けて伸びている「フレグラ」などシリアル食品でもシェアは38%を超えます。

スナック菓子のシェアと価格主導権を握っているのに

 高収益を生み出す鉄則は高い市場シェアを獲得して、激しい販売競争下でも勝ち抜ける価格主導権を握ること。カルビーは見事に体現しています。にもかかわらず、ここ数年は収益率が足踏みする。なにか歯車が狂い始めている証拠です。

カルビーの成長戦略、経営指標の詳細はこちらからhttps://www.calbee.co.jp/ir/pdf/2023/growthstrategy_20230221_script.pdf

 なぜカルビーが経営改革の参考になるのか。目の前の難題に首を傾げ、立ち往生しているからではありません。他社に先駆けて先進的な改革に取り組みながらも、成長の壁にぶち当たっているからです。

経営革新は先駆

 1980年代から今流行しているESG・SDGsの発想を取り込み、メーカーと農家が一体化する食材調達の仕組みを構築する一方、外部から優秀な人材を経営トップに起用し、創業家支配からの脱却に先手を打ってきました。最近、キリンビールなど大手企業が盛んに追いかけています。にもかかわらず、成長を危ぶむ経営指標が灯るのです。

 カルビーは創業1949年。戦後生まれですが、発祥の地は戦前・戦中、軍事産業が盛んだった広島県。長期間保存できる食品を補給する技術と経験が豊富に持つ企業が多く、カルビーも日本が長年培ってきた製造業のDNAを受け継いでいる企業です。

 ソニーやホンダなど戦後生まれの企業と同じく、自らの成功に安住せず革新を怠りません。「かっぱえびせん」で売り上げを大きく伸ばし、事業基盤を固めましたが、米国のマーケティング手法を活かして「ポテトチップス」を大ヒットさせ、日本の流通産業の常識も大きく変えました。

米国のマーケ、経営者スカウト、工場と産地の一体化

 その立役者は創業家で3代目社長の松尾雅彦氏。松尾氏は経営面でも米国の先進手法を取り入れる一方、ポテトチップスの主力素材であるじゃがいもの供給を確保するため、北海道の農家などと長期契約を結び、メーカーと農家が一体となる体制を築きます。北海道の農家に直接聞いたことがあります。「収穫のいかんにかかわらず、買い上げる保証があるので安心して農業に取り組める」。おいしいポテトチップスは、じゃがいもの素材だけで生産されるものではないのです。

 経営革新では2009年に米ペプシコと資本面で協力関係を結び、ポテトチップスなどが売上高の過半を占める企業体質の変革に着手します。ペプシコの子会社を買収し「ドリトス」などとうもろこし関連の商品ノウハウを取り込み、ペプシにカルビーの株式20%を売却し、創業家経営から脱皮します。経営トップも日本のジョンソン・アンド・ジョンソン社長を務めた松本晃氏をスカウト。ちなみに2023年4月1日に新社長に就任する江原信氏も松本氏と同じ伊藤忠商事、ジョンソン・アンド・ジョンソンなどを経ています。

 新しい発想を持った”プロの経営者”をスカウトする動きは最近、食品産業でもサントリー、キリンビール、アサヒビールと続いています。カルビーは先駆的な経営革新に挑んだにもかかわらず、なぜ成長力を失っているのか。

強すぎることが落とし穴に

 「強さが弱さを招く」。こう言い切って良いでしょうか。シェアトップを走る企業が経験する落とし穴です。カルビーは自ら市場の裾野を広げたスナック菓子でシェアを握り続けましたが、市場の伸びが天井に当たってしまい、それ以上の成長力を生み出す力を失ってしまいました。少子高齢化が加速する国内市場に対応できなかったこともあります。

 カルビーのような単品で稼ぐ企業は、販売力だけでなく生産効率も収益力を大きく左右します。拡大に向けて突っ走ってきたものの、工場の稼働率が上限に達してしまうと利益を生み出せず、損失が増えてしまうのです。

カルビーも自らの成功体験を否定できず

 ところが先行きが怪しくなっても、すぐには成功体験を否定できない。販売と生産はこれまで通り拡大路線の発想から抜け出せない。直近の事業計画が成果をあげていますから、あえて軌道修正する勇気も失います。高収益を生み続けた経営モデルが逆回転した始めると、利益よりも無駄な経費を生み始めるのです。

 カルビーは今回の成長戦略では2023年から25年までを「構造改革期」、26年から30年までを「再成長期」と設定しています。

 次回はその中身を点検します。

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