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ヨーカ堂の大量閉店 消費者目線を置き去りにしたデータ経営の負債

 セブン&アイ・ホールディングスが総合スーパーのイトーヨーカ堂を大量閉店します。3年間で合計33店も閉め、首都圏を軸に93店に絞り込みます。 ヨーカ堂は2期連続で最終赤字に陥っており、海外のファンドは分離を求めていました。しかし、不振の原因はヨーカ堂そのものよりも、コンビニで成功した日々の販売データを過信し、消費者目線を忘れた経営にあるのではないでしょうか。

総合スーパーの衰退にだけ目を奪われては

 イトーヨーカ堂は1920年(大正9年)、東京・浅草で開業した「羊華堂洋品店」が始まり。総合スーパーとして成長路線を歩み、ダイエーと競った時も食品売り場は弱いけれど衣料品は寄せ付けない強さを見せつけ、さすが祖業といわれたものです。

 イトーヨーカ堂は創業家の伊藤雅俊氏の時代に飛躍期を迎えます。安価を武器に売り上げ重視でトップを走っていたダイエーに対し、高い収益力をてこに抜き去り、総合小売りグループの頂点に立ちました。

主導権は伊藤雅俊氏から鈴木敏文氏へ

 しかし、現在のセブン&アイは事実上、日本でコンビニ事業を成功させた鈴木敏文氏が創業した企業グループです。総合小売スーパーのイトーヨーカ堂は全国展開したとはいえ、主要都市に限られます。

 これに対しセブンイレブンはより小さな街にも出店する一方、毎日の販売データを分析して100平方メートル程度の小さな店舗に売れ筋商品だけを並べる戦略に大成功します。

 販売地域での熾烈な競争、長時間労働などさまざまな弊害が指摘されましたが、早朝から深夜まで「開いてて良かった」と感激する便利さと生活密着度が消費者から高い支持を受け、日本の小売業を根底から変えました。

 セブンイレブンがイトーヨーカ堂グループの柱から大黒柱へ移るにつれ、経営の主導権は創業家の伊藤雅俊氏から鈴木敏文氏へ替わります。2005年9月に持ち株会社としてセブン&アイが設立したのが大きな節目でした。

その鈴木氏が去ってもデータ経営は継承

 しかし、2016年2月に鈴木氏は”追放”されます。詳細は省きますが、伊藤雅俊氏との確執や現在も社長を務める井阪隆一氏の退任を巡る人事闘争が背景にあるようです。

 鈴木氏が去った後もデータ重視の経営は成長の方程式として継承されます。全国の2万店から集まる販売情報を分析するだけでなくスマホ用アプリも活用し、商品戦略や決済などを合理化する一方、ネット販売で圧倒するアマゾンに対抗します。

 しかし、大きな落とし穴に嵌っていることに気づきません。消費者が次に欲しがる商品、言い換えれば本当に買いたい目線を見逃していました。

ヨーカ堂の売り場に行ってみてください

 イトーヨーカ堂の食品などの売り場に行ってみてください。大きなフロアに大量の商品がいっぱい並んでいます。陳列棚は背が高く、立派です。でも、どこに何が並んでいるのかがわかりません。

 レジの合理化を目的に電子決済だけのコーナーを設けていますが、利用する人はまだ少数派。誤って入ると、スタッフから「ここに入らないでください」と言われます。商品を買う消費者が大事なのか、販売コストの合理化が大事なのか。首を傾げます。

 その店舗で覚えた感触を忘れずに近所にある中堅の食品スーパーの売り場を眺めてください。なにかが違うぞと感じるはずです。イトーヨーカ堂は大量の商品が並んでいるだけで、何を売りたいのかが不明。もちろんチラシやPOPなどで安売りや特売品はわかります。果たして消費者が望んでいるものかどうか。

生活密着の地方スーパーとの違和感を感じてみて

 この違和感は地方都市に行くともっと強く感じるはずです。地域密着を謳う地元のスーパーは、地域の購買層が限られていることもあってお店を訪れる人が何を欲しているかを身誤ると、販売機会の損失に直結、収益は一気に下がります。高齢者の数、購入単価、今日何を食べたいのかなどきめ細かく日々の販売を通じて現場が感じ取っています。

 スーパーやコンビニの成長力でトップの座に立ったセブン&アイは、大量仕入れやプライベート商品などで優位に立っています。しかし、それは人口が多い首都圏に通用しても他の地域では販売ロスを招くなどむしろ足を引っ張っています。

どう変わろうとしているのか

 イトーヨーカ堂の大量閉店は、総合スーパーという業態の衰退を意味しているだけとは思えません。販売データに頼り、お店の現場が教える消費者の好みの変化、次の売れ筋などを聞く努力が失い、小売業本来の力が衰退している予兆の一つとしか思えません。

 今回の大量閉店に合わせて、衣料品事業から撤退するそうです。ただ、4月1日付けの人事で創業家出身の伊藤順朗氏が代表取締役に就任します。創業家の復帰は鈴木敏文氏だけでなく、セブンイレブンの成功体験とも決別し、創業の精神をゼロから創造する覚悟を表明しているのでしょうか。

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