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カリスマ経営者が「白雪姫」から学ぶこと 永守さん、鏡を直視する勇気を

  くすぶっていた日本電産の後継問題から赤い炎が見えてきました。創業者の永守重信さんが繰り返す自身の後継者指名が何度もドンデン返ししてしまい、大きな期待を集める日本電産そのものの未来図まで汚してしまいそうです。

 「嫌だったら、買わなければいい。会場を出たら、売ってくれ」

新聞が「激高した」と伝えた株主総会

 2022年6月17日に開催された日本電産の株主総会で行われたやり取りです。株主の質問に対し、永守さんは激高したと読売新聞は伝えています。

 2ヶ月前の4月、1年前に後継者として指名した関潤社長を「株価が耐えられない水準」との理由で降格させています。関氏が指揮した1年間の結果である2022年3月期は過去最高の水準を記録しました。それでも耐えられない水準と評価した永守さんが再び経営トップに返り咲いたものの、株価は一年前に比べて4000円程度低い8000円台で足踏みしたまま。「世界の株価が下がっている。日本電産だけ上がることはない」と現況の株価水準を説明しましたが、いつもの永守さんらしくない発言でした。

 永守さんが強気の見通しを示せば、日経平均全体が上向くほど多くの株主から信頼され、顔を見るだけで安心するといわれたカリスマ経営者です。「世界の株価が下がっても、日本電産の株価は上がる」というセリフを聞きたかったはずです。ところが「買わなければいい」「売ってくれ」と言い放ちます。上場会社としての自覚はどこかに置き去りにされ、まるでファミリー企業の株主総会のようです。

 新聞記事で滅多に使わない「激高」という表現を採用したほどですから、余程の剣幕だったのでしょう。永守さんの激高ぶりを見た株主のなかには、カリスマに陶酔した気分が急に覚めていく自分に気づいた人が多かったはずです。

経営者の年齢は実年齢を7掛け

 もうひとつ見逃せないやり取りがありました。後継者が定まらない現況を踏まえ、2022年で78歳になる年齢について触れ、「私の家では90歳以下で死んだ人はいない。長生きのDNAがある」と述べたそうです。

 同じようなセリフを聞いたことがあります。スズキの鈴木修さんです。世界の自動車メーカーの中では中堅規模でありながら、軽自動車の開発・生産技術を武器に世界の巨大メーカーとの提携を実現し、世界企業に育て上げたカリスマ経営者です。繊維機械メーカーから自動車メーカへの転身を成功させたわけですから、事実上の創業者です。

 社外では偉そうなそぶりは全くしません。ご自身がライフワークにしている軽トラックの荷台を使った「軽トラ市」によく顔を出すのですが、鈴木修さんの人気ぶりはアイドル並みです。並んで写真の撮影を希望する人が絶えません。

 その鈴木修さんは70歳を超えた頃から「年齢は7掛け」とたびたび口にし始めました。80歳を7掛けで計算すると、56歳。実年齢は引退が当たり前ですが、実質年齢はバリバリに油が乗り切った経営者のままという試算です。現在は92歳といつも通りの元気さを誇っていますが、だいぶ前から「100歳まではかならず生きていく」と断言しています。

スズメバチが焼酎のボトルにびっしり

 何度もお酒をご一緒しましたがある時、焼酎を注ぎ込むボトルを見て驚きました。スズメバチがびっしりとボトルに詰め込まれていました。ボトルのガラスを通してスズメバチの大きな目と合います。「スズメバチの焼酎はディーラーさんからいただいたんだ」と笑いながら、焼酎を注いだグラスに唐辛子と紫蘇の葉を入れてグイッと飲み、にんにくを丸かじりします。ほかのおつまみも「蜂の子」「ざざ虫」など故郷の好物が続きます。修さんは100歳を突き抜けていつまでも生きると確信したものでした。

 このサイトでも何度もカリスマ経営者の後継者問題を書いていますので繰り返しません。鈴木修さんは 最高の後継者と期待した娘婿を病気で失う不幸があったこともあり、後継者選びには相当苦労しました。経営を長男の鈴木俊弘さんに譲った後も、「やっぱり、自分がやらなくちゃいけない」と身を乗り出す場面が続いていました。年齢を7掛けすれば、まだまだ引退する年齢ではないのだと言い続けます。

誰にでも真実を写す鏡を

 創業から味わった苦難と成功を知るカリスマ経営者の辛さを理解できるわけではありません。ただ、永守さんが鈴木修さんと同じようなセリフを唱え始めた姿をみると、永守さんは後継者問題で苦しんだ鈴木修さんと姿がダブって見えます。ぜひ、鈴木修さんの苦渋の選択を学んでほしいです。

 「岡目八目」の呑気な外野席で眺め続けた経験でいえば、後継者問題は「自身の理想をどこまで貫くのか」というよりも「どこで妥協するのか」に尽きると考えています。「妥協の産物として後継者を選ぶしかない」ということではありません。経営環境はどんどん変わり、過去の経験則が通用しないのはいつの時代も同じです。次代に求められる経営の才覚は創業者が積み重ねた成功体験と異なるのは当然です。次代の経営者に納得できないのは長年の年月で変貌し、時代に取り残されていく自分自身の実像を見失ったからかもしれません。

 自分自身の写真を見るとドキッとする経験を覚えていませんか。風呂上りに見る鏡の自分と写真に写る自分の顔が違うのです。鏡で毎日見る自分はまだ30歳代のように見えますが、写真では髪の毛は薄くなり、肌の張りは消え高齢者そのものです。隣に20歳代の若者が並んでいたら、もう目も当てられません。

 時々、「白雪姫」の逸話を思い出し、今の自分を見詰めようと努力しています。

グリム童話の一節の要約です。

 白雪姫の継母にあたる王妃は世界で一番美しいと信じていました。魔法の鏡にたずねます。
「鏡よ鏡、国中でいちばん美しいのはだれ?」。「あなたが国じゅうでいちばん美しい」。鏡がこう答えるのを聞いてホッとします。
しかし、白雪姫が7歳の時、「白雪姫は、あなたより千倍も美しい」と答えたそうです。

 私のような凡庸な人間には魔法の鏡、真実を映す鏡は必要かなと思っています。

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