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公取委はダイハツとスズキの統合を認めるか 軽EVが突き崩す需要の変化がカギ

 お正月が近づいたので、好きな日本酒を飲みながら夢想に耽ることにしました。

 お題は「公正取引委員会はスズキとダイハツ工業の経営統合を認めるのか」。もちろん、現在は架空の話です。水面下で動いていると推察しますが、夢想の域を出ません。ただ、ダイハツの先行きを冷静に考えれば、とても厳しい茨の道が待っているのは確実です。経営の窮地から救済するアイデアとしてスズキとの経営統合が浮上しても不思議ではありません。長年の軽のライバルとはいえ、今はトヨタ自動車グループの一員。素っ頓狂な救済策だと無視できるものではありません。公取委も頭の体操を始めているに違いありません。

架空の話を夢想

 安全に関する不正認証試験によって新車販売・工場停止に陥ったダイハツにとって、2024年は過酷な幕開けを迎えます。業務停止に伴う休業補償、販売の機会損失、従業員の給与補填、さらに不正による提訴の可能性などを考えれば、巨額の資金需要が発生するのは確実です。トヨタ自動車の完全子会社ですから、このまま行き倒れすると全く心配していません。日本一資金に余裕がある親会社です。救済する体力は十分にあります。

 しかし、日野自動車の例を思い出してください。不正事案に違いはありますが、エンジン認証試験の不正で販売停止に追い込まれ、本社工場売却も見込まれています。2024年末までにはベンツグループの三菱ふそうトラックバスと経営統合し、事実上解体の道に押し出されそうです。日野再建の事例を念頭にトヨタグループの思考回路を巡ると、ダイハツの経営再建策が日野と同じシナリオで進む可能性があると夢想してしまいます。

 もし百万分の一の確率で、ダイハツとスズキが経営統合するとしたら・・・。軽自動車のシェアを二分する両社だけに独占禁止法をどうクリアするかが実現の扉を開くカギの一つとなります。つい、独禁法の番人である公取委の胸の内を探ってみたくなりました。

鉄鋼や石油は1社で過半シェア

 まず再編を繰り返している産業を例にみてみます。鉄鋼の日本製鉄。「世紀の合併」と呼ばれた富士製鐵と八幡製鉄の経営統合から誕生した新日本製鉄は、2000年代に入って住友金属、日新製鋼を飲み込み、社名も日本製鉄と変更しました。粗鋼生産量は約5000万トン。先日、米国のUSスチールを買収すると発表しており、実現すれば世界第3位の鉄鋼メーカーに再浮上します。

 日本製鉄の国内シェアは55%程度。2023年度の国内粗鋼生産量が8810万1000トンとなるそうですから、過半は軽く超えます。もう一つは石油。トップシェアを握るエネオスも50%超。エネオスの前身、新日本石油は三菱石油などを相次いで傘下に収め、シェアの過半を握りました。日本製鉄はJFE、神戸製鋼所、エネオスは出光興産、コスモ石油など国内で数社のライバルを残すのみです。近い将来、日本製鉄、エネオスは、残るライバルを手中に収めるという噂が絶えません。

 共通するのは国内需要の成長力低下。右肩上がりの需要増は期待できず、足踏み状態、あるいは縮小均衡に追い込まれていることです。国内市場での価格競争を繰り広げて消耗する余裕はなく、海外勢と闘う経営力を取り戻さなけば、日本国内で過半のシェアを握っていても存続できるかどうか危うい経営環境にあります。価格カルテルと目される不正は許されませんが、過半のシェアが即、独禁法に触れるかどうかをチェックするかつての構図は終わりを告げています。

競争相手は世界の企業

 日本の企業は1980年代、その強さで世界を席巻してきましたが、今や立場は逆転。海外企業に押されっぱなし。国内の価格競争が日本の市場論理だけで決まるわけではなくなっていることもあります。公取委が現状に目を背けて過去の事例を模範に摘発しているようでは、公取委も過去の遺物に。すでに独占禁止法の運用も単にシェアの大きさを目安にせず、今後の成長市場を睨んだ競争促進へ重点を移し始めています。十分に理解しているはずです。

 では、ダイハツとススキの場合はどうでしょうか。軽自動車市場でダイハツは33%、スズキは30%のシェアを握っています。単純に足し算すれば63%。過半を大きく上回る数字です。ただ、新車販売全体でみると、数字の重みは低下します。軽自動車は1000CC以上の普通車を含めた新車販売の比率で全体の約40%を占めます。単純計算すれば、ダイハツ・スズキのシェアは25%程度。シェア第1位のトヨタが50%近いシェアを占め、2位の日産自動車は10%超。ダイハツ・スズキは数字上では日産を抜き、2位に浮上しますが、新車全体では寡占状態に変わるわけではありません。

 軽自動車の市場に限定すれば価格などの競争は消えてしまうのか。過去を振り返れば、確かにその恐れはあります。軽の価格はダイハツとスズキの熾烈な競争で決まってきました。両社が手を結べば、高値安定となる恐れはあります。

 しかし、軽自動車をめぐる環境は激変しようとしています。電気自動車(EV)の登場です。日産や三菱自動車が発売した軽EVは大ヒットしています。エンジン車に比べて高い販売価格は公的補助金で抑制できるうえ、100キロ程度の航続距離も日常の買い物や通勤に限れば不便は感じません。CO2を排出しないカーボンニュートラル時代のクルマとして着実に増えていきます。

EV時代に挑戦できる経営力を

 軽の規格を含めて自動車の需要構造も大きく変わり始めています。人口減や所得低迷で日本国内の新車需要は伸びそうもありません。軽自動車は狭い道路や公共交通機関が不足する地方の足として設定された日本独特の規格です。エンジンと車体の大きさに上限が設定され、1000CC以上の普通車と税制面などで優遇されています。しかし、地方の人口減は加速しており、軽の購入層はもちろん、車の需要自体が底割れするかもしれません。

 一方、海外ではEVが着実に普及しています。使い勝手や価格面のメリットもあってエンジン車が急減するとは考えていませんが、世界の主要メーカーはEVの特性を活かした新車開発を進め、購入者の車選びにも変化が生まれています。100年以上に渡って築き上げたエンジン車の需要構図は崩れ、これまでのシェアがそのまま将来の強さを保証するものではありません。

 ダイハツ・スズキのシェア63%が5年後も60%をキープできるかどうかは誰も予想できない時代が迫っているのです。ダイハツとスズキが共に世界で生き残る日本の自動車メーカーとして生き残りに挑むとしたら、シェアの多寡は問題にならないのでは?

 もっとも、ダイハツとスズキがそのまま経営統合するシナリオはないと予想します。ダイハツはトヨタの海外小型車向けの拠点と位置付けられていますから、経営再建のシナリオの一案としてトヨタ向け海外小型車を分離する可能性があります。そうなれば、軽自動車の事業部門だけを別会社化し、スズキとの合弁、あるいは持ち株会社の傘下に収めるなど「ダイハツ」ブランドを残しながら事実上の軽自動車の一体化を実現する案も浮上するでしょう。

最高のシナリオは最強のダイハツ復活を

 あるいは軽、小型車、あるいは商用車の区分に限ってEV事業を切り出し、ダイハツとスズキが新会社を設立する案もアリかもしれません。頭の体操です。色々なシナリオが浮かんでは消えるでしょう。

 最高のシナリオはダイハツが現状のまま、息を吹き返して「いつものダイハツ」に戻ることです。強いダイハツが強いスズキと一緒になる。これが最高のシナリオです。

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