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ダイハツ従業員が可哀想 親会社がレースワンピで子会社の惨状を語るとは

 どう理解したら良いのでしょうか。親会社は子会社の面倒を見る。至極当たり前のことがトヨタ自動車グループで実践できていたのか首を傾げます。「上場企業」「日本を代表する企業」「製造業最大の企業」「世界1位の自動車メーカー」・・・。トヨタの凄さを表す形容詞は数えきれません。でも、親が子を育て、苦しい時には助ける当たり前のことができないのでしょうか。もうびっくりです。

記者会見はイベントの話題の後にダイハツ

 自らの想像力の欠如を恥じてしまいました。カーレース用ワンピースの服装でダイハツの今後を語るとは思いませんでした。トヨタの豊田章男会長は12月22日、タイで開催された10時間耐久レースの予選終了後、記者会見に登場しました。豊田会長はタイ企業とカーボンニュートラル実現に向けての連携を確認し、トヨタ主催のモータースポーツイベントでドライバー「モリゾウ」として走った後のようです。その姿はレース用のワンピースを着たまま。堅苦しい形式に全く拘らない、むしろ嫌いな私でも、ワンピでダイハツの不正問題を発言するとは・・。2度目のびっくりです。

 現地の記者会見ではレースの内容の後、挟む形でダイハツ工業の不正試験について記者から質問がありました。タイ現地で取材した記事を参考に紹介します。文中はメディア「Car watch」からの引用です。

豊田会長:ダイハツのクルマに乗ってる方に多くのご心配をおかけし、日本の自動車会社を代表して、ご心配をおかけして申し訳ないと、まず申し上げたい。

 自動車というものが、世の中を安全かつ快適に走り続けるためには、みなさまから信頼される仕事をしてこそ乗っていただけるものだと思っています。

 不安になったお客さまも多々いると思います。やってしまったことは取り返せませんが、今後ダイハツは1日も早く信頼を回復できるよう、親会社のトヨタとしても全面協力で立ち直らせる努力してまいりますので、一度動向を見守っていただきたいと思います。

──5月のタイの会見でも、創業の精神として真因を究明し再発防止に取り組むことがトヨタの創業の精神だと話されていた。その考えは変わりないということでいいか。

豊田会長:変わっていないが、この6カ月間は第三者委員会の調査もあり、いろいろ動きづらい点もあったと思います。第三者委員会の結果も出ましたので、ダイハツがその結果を精査する手助けをしながら、なんとか前を向いて自立できるように応援をしていきたいと思うので、一度お時間をいただけないでしょうか。トップが何かを発言しただけで、何十年も続いた会社のカルチャーを変えることはなかなか難しいと思います。それでも、もっと多くの人がその商品を信じ、安心快適に移動をしたいという信頼取り戻すためには時間がかかると思いますけど、滞りなくやること、支援することをこの場でお誓い申し上げたい。

 記者会見の質疑応答をどう受け止めかは人それぞれです。40年以上も企業トップの記者会見を経験している身から見ると、冷静にダイハツの現況を眺め、完全子会社ダイハツの親会社としての姿勢を説明しています。経営コンサルタント会社が点数をつければ合格点を付けるでしょう。ただ、豊田会長が最も嫌悪する「一言一句」を捉えて再度眺めると、「あれ、トヨタは親会社ですよね」と改めて問いかけたくなるフレーズが見当たります。

なんとか前を向いて自立できるように応援をしていきたいと思うので、一度お時間をいただけないでしょうか。トップが何かを発言しただけで、何十年も続いた会社のカルチャーを変えることはなかなか難しいと思います。

 会社勤めした人ならすぐに理解できると思いますが、親会社と子会社の関係は「なんとか前を向いて自立できるように応援していきたい」という関係ではありません。親会社は子会社の経営の詳細をチェックし、一挙手一投足まで口やかましく言ってくるのが常識です。上場会社なら連結決算の数字に直撃しますから、事細かに口出してくるのが通例です。

「トップが発言しただけで」とは?!

 まして「トヨタの創業の精神」を2009年の社長就任以来、説き続けてきた豊田会長です。前任の奥田碩さんら非創業家出身が敷いた経営路線を否定し、子会社、グループ会社のトップ人事に自身が信頼できる人物を送り込んできた経緯があります。「トップが発言しただけで」を「親会社が指示しても改善できなかった」と受け取るのは勘違い。

 あれだけ系列、グループ会社の求心力維持に腐心してきたのに、なぜ不正が起こったのかを注視するのが最優先です。不正認証試験が相次いで発覚した日野自動車、ダイハツはトヨタ系列の意識が薄く、トヨタの求心力よりも遠心力が強いグループ会社でした。リコールの異常大量発生に直面するデンソーもそうです。第三者委員会は2014年以降からダイハツの不正認証試験の事案が増えたと報告していますが、明らかに豊田社長は親会社として影響力を持ち、行使していた時です。「トップが何か発言しただけで・・・」という言葉を素直に受け止めるトヨタグループの従業員はいないでしょう。

ダイハツの不祥事は8136社に影響

 ダイハツは新車販売の停止に続き、12月26日から工場も停止します。NHKによると、部品納入などで経営に打撃を受ける企業は8136社に及ぶそうです。日本経済にとって無視できる数字ではありません。その親会社のトップがスポーツイベント後の記者会見で、レーサーとしての話題の間にダイハツの再生について発言する感覚がよくわかりません。

 ちなみに記者会見はダイハツの経営問題の後、次のような質疑応答が続いています。

──モータースポーツに話を戻したい。マスタードライバーのモリゾウさんから、ドライバー目指す人にアドバイスください。

豊田会長:ドライバーを目指す人にはクルマを好きになってください、運転を好きになってくださいと申し上げたい。運転する以上はルールがある。安全な交通流を作る一員であるという認識は忘れないでほしい。安全な環境の中に初めて楽しさが産まれると信じています。この2つを運転目指す人には申し上げたい。

「クルマを好きになってください」とモリゾウ

 まもなく正月です。例年、ダイハツの初売りのテレビ広告が流れていました。「大初夢フェア」と題し、シカのキャラクターが力が抜けた新車販売キャンペーンを演じます。今年は見ることはないでしょうね。正月気分にぴったりの軽さが好きだったのに・・・。

 ダイハツの従業員はトヨタの姿勢を悪夢と感じるのか、正夢と諦めるのか。とても大初夢フェアどころじゃないでしょう。

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