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出前館が黒字をデリバリーする日?広告費圧縮の悪循環から逃れられるのか

 料理を宅配するフードデリバリーサービスは、日本で成功するのでしょうか。テレビCMをよく目にする「ウーバー・イーツ」、出前館ともに収益面はまだ道半ばのようです。ウーバーの日本での詳細な業績は公開されていませんが、株式上場企業の出前館を直近の決算報告を見ると、6年連続の赤字見通しです。かつてアマゾンは赤字を続けながら、ネット通販の成長力が評価されて株価は上昇し続けました。比較するのも可哀想ですが、出前館が株主に黒字をデリバリーする日は訪れるのでしょうか。

6年連続の赤字見通し

 出前館の業績を見てます。2023年9月〜2024年5月期第3四半期の連結決算は、営業利益、経常利益、純利益とも50億円台の赤字。前年同期はいずれも100億円の赤字ですから半減しましたが、通期でも33億円の最終赤字を予想しており、6年連続の赤字から抜け出せません。成長期にあるビジネスでは赤字を垂れ流しながらも、広告などの投資を惜しまずに攻めの経営を死守し、ライバルを蹴落とすのは常套手段。アマゾン、ウーバーも同じ道を突っ走り、世界企業となりました。

 出前館も最終ゴールに待ち構える風景は同じです。元々は1999年に大阪でデリバリーの仲介サイトを創業し、ヤフーなど成長企業に敏感な投資家を巻き込みながら、2006年6月に当時の大阪証券取引所ヘラクスレスに上場。今はラインを筆頭株主に著名な機関投資家が名を連ね、彼らの信用と豊富な投資資金を裏付けに赤字経営が続いても経営不安の憶測は飛び交うことはありません。ここまではアマゾンでも経験した図式です。

広告宣伝費が重しに

 赤字の主因は広告宣伝などマーケティング費用の大きさにあります。ウーバー・イーツなどライバルと比較され、その中から選ばれるためには知名度が最大の武器。ビジネスモデルは宅配するサービスのスピードと信頼性にありますから、人材確保もカギ。出前館にとって広告は設備投資そのもの。メーカーが工場建設や技術開発にお金を投じるのと同じです。

 ただ、黒字化まで道筋が見えません。コロナ禍明けで宅配サービスの利用をやめ、実店舗で食事する流れが戻ってしまい、デリバリーサービスの成長余力が失われています。出前館が赤字幅を半減できたのも、広告費などを削減しているためです。2024年5月期第3四半期をみても、「販売管理費及び一般管理費」で46億円を圧縮した効果が反映したに過ぎません。広告費は設備投資と同じと考えるなら、設備投資の圧縮は成長力の低減に直結します。

「事業基盤が日本」が足かせ

 出前館が悩ましいのは、ビジネスの基盤が日本であることではないでしょうか。少子高齢化による人口減社会の日本は、国全体の需要が低減しており、特に出前館がターゲットにする若者層は先細りしています。半面、高齢者の独居世帯が増えていますが、高齢者のデリバリーサービスは現在の出前館が想定している内容と違い、福祉関連の視点がもっと必要なものです。

 ライバルを蹴落としても、最大のライバルであるウーバー・イーツが撤退する可能性が小さく、縮小均衡している若者マーケットを奪い合う悪循環に陥る公算が大きいはず。実際、コロナ禍明けもあって1年に1回以上サービスを利用した人の数を示す「アクティブユーザー数」は2024年2月末時点で25%減の579万人だったそうです。

 ウーバー・イーツが最近のテレビCMでおばあちゃん役として夏木マリさんを起用して孫の食事までを念頭に知れた大家族のデリバリーサービスをアピールしているのも、日本で宅配を利用する需要層を拡大するためには従来、無縁と思われる世代の取り込みが喫緊の課題と判断しているからです。

 ビジネスの舞台として選んだクイックコマースは確かに期待できます。フードデリバリーだけでなく日用品など幅広い製品を対象にした宅配サービスが急増しています。ネットスーパーは拡大中ですし、コンビニエンスストアの即日配達も本格化しています。市場調査会社によると、日本の市場規模は2027年までに60%以上も拡大すると予想しています。事業基盤は着実に拡大する見通しです。ラインが大株主として参加し、ヤフーやアスクルなどが出前館と事業連携するのも、スマートフォンを利用したデリバリーサービスがまだまだ成長すると確信しているからです。

経営コンサルのパワポから脱する戦略を

 出前館はまだクイックコマースの扉の前で「ピン、ポン」とボタンを押した段階かもしれません。その扉を開き、市場の奥深く入り込み、存在感を増す経営戦略が乏しい印象です。ライン、ゴールドマン・サックスなど海外の機関投資家などが大株主として名を連ね、多くのネットビジネス企業と連携する様は、見事です。ただ、事業の鳥瞰図は壮大でも、経営コンサルタントがプレゼンテーションで描いたパワポをみている気がします。

 事業の主菜であるフードデリバリーをどこまで多彩に修正できるのか。結局は広告宣伝費の圧縮で利益を捻出するしかないのか。2024年5月期第3四半期の決算書を見る限り、先行きは不透明です。このままでは出前先の玄関の扉を開けてもらえずに「お届けできず」で終わるのではないでしょうか。

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