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テスラの米フリーモント工場

EVが産業のカタストロフィをもたらす、遅すぎる日本 テスラに対抗するには?

「プリウス」の牙城が崩れ始める

電気自動車(EV)の普及が急加速しています。世界の自動車メーカーが2030年代にEVに切り替えるニュースが相次ぎ、トヨタ自動車が「プリウス」で築き上げたハイブリッド車の牙城が崩されそうとしています。1997年10月「プリウス」を発売した時、「21世紀に間に合いました」のキャッチコピー通り、世界の自動車メーカーに大きな衝撃を与えました。エンジンとモーターを組み合わせたパワートレーン、バッテリー設置に伴う車体デザインの不自由さ、1台販売しても数十万円の赤字必至と噂された価格設定など様々な課題を乗り越えて登場しただけに、世界の自動車市場でプリウスは環境に優しい車の代名詞とまでいわれるブランドを確立しました。

ハイブリッド車はもともと電気自動車へのつなぎ役

しかし、その優位性はもはや風前の灯です。米カリフォルニア州は2035年から新車販売できる車を排ガスを出さないゼロエミッション車に限定する施策を決定。新車販売が許されるのはEVと燃料電池車だけ。内燃機関エンジン車、つまりガソリン車そしてハイブリッド車は禁止されます。これまでもカリフォルニア州の排ガス規制は世界の潮流となっていただけに、当然のように欧米の自動車メーカーはEVシフトを加速しました。トヨタも元々プリウスをゼロエミッション車のつなぎ役と位置付け、EVはもちろん燃料電池車「MIRAI(ミライ)」の開発、燃料電池の駆動源となる水素関連の特許取得などを急いでいましたから欧米各社に競い負けすることはありません。ただ、ハイブリッド車の累積販売台数が拡大したため、トヨタが抱える関連産業が広がった結果、電気自動車へ舵を急に切るわけにもいきません。電気自動車へシフトしたいが、ハイブリッド車の市場も守らなくてはいけない。これがトヨタのジレンマとなっています。

日本の政府、産業界のEVシフトが遅すぎる

それよりも、気になるのは日本市場のEVシフトへの遅さです。アナログな例で恐縮だがトランスミッションのギアシフトに例えれば、まだ3速か2速のまま。エンジン音がゴロゴロ鳴っているのが聞こえます。日本の自動車メーカーは打ち上げ花火のようにEVの開発計画を発表しますが、私たちの目の前に新車が登場する具体的な動きは鈍ったままの印象を受けます。

日産自動車はいち早くEV車を本格投入しました。この背景にはトヨタのハイブリッド技術との違いを出す必要があったからです。日産はハイブリッド車の開発でトヨタに大きな先行を許す一方で、経営再建を託されたカルロス・ゴーン氏が研究開発費の削減方針を打ち出したこともあって環境技術の開発に出遅れました。その遅れを挽回するにはハイブリッド車の投入よりもハイブリッド車の次を担う環境技術車、つまり電気自動車へ一歩早く踏み込む必要がありました。ですから、日産が投入する電気自動車は新車投入のたびに進化が目に見えてわかるというクルマを購入する側としては、電気自動車を学ぶ良い機会になり、それが普及の素地を作り上げたとも言えます。日産の電気自動車はパイオニアとしての功績は大です。

三菱自動車も同じ構図です。経営不振から新車開発の投資を抑制せざるを得なかったため、内燃機関のエンジン車の開発は事実上停止した時期がありました。これを逆手にとって登場したのが「アイミーブ」です。電気自動車としての先駆であり、車体デザインもかなりユニークな卵型です。そのまま博物館に陳列されてもおかしくない自動車史に残る名車です。テスラもそうですが、エンジンで先行した世界の自動車メーカーに追いつくためには、これまでの常識を打ち破るしか方策がないのでしょう。これが電気自動車の進化を早め、普及を加速させた大きな要因です。

日本のEVシフトの遅さは日本経済の根幹である産業プラミッドのカタストロフィ(崩壊)対する恐れが根底にありそうです。自動車産業は鉄鋼、石油などの基幹産業も含め、部品メーカーなどで構成する産業ピラミッドを築いています。EVは内燃エンジンの代わりに電気モーターを据えれば完成というわけではありません。動力を担うパワートレーン、操縦安定性や安全に大きな役割を果たすシャシーなどそれぞれを構成する部品の開発・生産に大きな変革をもたらします。不要な部品が大量に発生するはずです。ガソリンスタンドも充電スタンドへの変身で事業を維持できる店は少ないでしょう。

発想そのものがカタストロフィ

しかし、EVシフトが日本の経済成長を支えてきた既存産業の衰退をもたらすのは確実です。イノベーションとは衰退を乗り越え、新たな進化をもたらすと言いますが、イノベーションに必要な技術を確立しながら事業改革にまい進できる企業は多くありません。またEVに不可欠な充電スタンド数の整備は日本や世界の発電供給体制を大きく変えます。とりわけ急速充電するEVが増えた場合、その需要に応えるためには膨大な待機電力を増やす必要があります。ゼロカーボンを念頭におけば必要な電力需要を賄うための火力発電の増設は難しいのが現状です。原子力発電の急拡大が不可欠という議論さえあります。EVとガソリン車のほどよい棲み分けが現実的な議論とされるかもしれませんが、ゼロカーボンという究極のゴールは遠のくばかり。これからの10年間、20世紀の成長エンジンだった自動車産業がどのように変革していき、どのような産業に生まれ変わるのか。それがカタストロフィをもたらすのか。大胆な決断を日本は迫られているのです。

10年前のテスラの工場は閑散でした

10年近く前にテスラがEVの生産拠点として買収した工場を訪れたことがあります。かつてトヨタ・GMの合弁会社「NUM M I」がカリフォルニア州フリモントに建設した工場ですが、生産は軌道に乗らず四苦八苦していました。まさに100年以上の歴史を重ねた自動車産業へのゼロからの挑戦を始めた時でした。テスラの成功は旧来型の産業へ忖度する必要がなかったことがあります。そのテスラの創業者であるイーロン・マスクは火星移住に向けて計画を着々と進めています。日本のEVがテスラの背を追いかけるためには火星へワープするくらいの覚悟が求められるのは当然かもしれません。ZOZOの創業者、前澤友作さんはイーロン・マスクの宇宙旅行計画に参加します。前澤さんが自動車メーカーを経営している姿を見てみたいです。日本ハムの監督に新庄剛志氏が就任する時代です。全然アリですね。

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