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いつかはクラウン

「いつかはクラウン」が「まさかのクラウン」に 王様と道化師の勘違いにピエロは泣くしか

 「クラウン」と「クラウン」。CROWN とCLOWN。英語の発音は同じ表記ですが、「R」と「L」の一字が異なるだけで意味は全く違います。CROWNは王様、CLOWNは道化師。王様の前で宮廷に笑いをもたらす役割を任じ、世の中の苦しさ、怒り、悲しみを演じて笑いを生み出します。お城で暮らす王様に庶民の生活を伝える意味もあったのでしょう。道化師にはピエロという言葉もありますが、こちらはクラウンの一部で悲しみを演じる役割を担うそうです。

王様の前で演じる道化師クラウン

 なぜ、こんな書き出しになるか。最近のトヨタ自動車「クラウン」の新車投入に関する話題を見ていると、上記の2語がどうしても思い浮かぶからです。

 トヨタは2022年9月に「クラウン」をフルモデルチェンジ、日本のセダンの象徴であるクラウンに4車種を設定し、発売しました。前のモデルは2018年6月に投入しているので、わずか4年での全面改良です。まず「クロスオーバー」を発売した後、2023年秋に「スポーツ」「セダン」、2024年に「エステート」を発売する計画です。

新たな4車種はそれぞれ車型が違う

 4車種とも同じクラウンの冠がつきますが、それぞれコンセプトに合わせてデザイン、車長などが微妙に違います。クロスオーバー発売から遅れること半年後の2023年4月にクロスオーバーに続く3車型の概要が明らかになりました。

 ここから先は細かい数字が増えます。我慢してお読みください。昨年9月に発売されたクロスオーバーの車型は全長4930ミリ・車幅1840ミリ・高さ1540ミリ。今年秋に発売されるスポーツは全長で220ミリ短く、車幅で40mm広く、全高で20ミリ高い。クロスオーバーに比べボティががっしりした印象で、全高が高いので後席の空間が広がっています。スポーツカーのような硬い塊のようにキビキビ走行する感覚を強調しながらも、5人乗りを意識した設計になっています。

 ちなみにセダンは同じ順序で5030ミリ・1890ミリ・1470ミリ、エステートは4930ミリ・1880ミリ・1620ミリとすべて違います。セダンは5メートル以上となり、欧州の高級車並みの存在感が醸し出るのではないでしょうか。

日本の自動車の象徴クラウンを捨てるかのよう

 クラウンが発表された直後から感じていますが、「もったいない」の一言に尽きます。クラウンのフロントマスクに輝くロゴ、王冠は日本のモーターリゼーションの歴史を示すエムブレムです。欧米の高級車と比較され、海外に輸出できない日本独特の高級車と言われながらも、日本の消費者が欲したクルマを体現し続けました。パトカーを見てください。災害や事件などで「クラウン」のパトカーを見かけると、ホッとしませんか。

 今回の全面改良は、よく言えば創造的破壊。セダンのニーズが衰退した現況を踏まえ、これまで弱点とされた「若者」と「世界」を念頭に置いたモデルチェンジです。半面、クラウンが誕生以来、60年以上も培い、築き上げたブランドを一気にゼロへ。しかも、4車種を俯瞰すると、それぞれ別のクルマ。トヨタがカローラなどで展開していますが、同じブランドでも実際は違う車がメニューに並ぶ発想です。

 勇気か蛮勇か。2022年7月当時、ワールドプレミアムとして発表した豊田章男社長の意気込みを見ていると、勇断でしょう。新しいトヨタのイメージを創造したい意欲を感じました。

なぜ王様を道化師に貶めるのか

 しかし、疑問は消えません。なぜクラウンをゼロにする必要があるのか。世界一の販売台数を誇るトヨタです。車種構成を考えても、クラウンをゼロにする理由がわかりません。多くの人に信頼され、愛されてきた車の歴史をゼロにしてしまうことが理解できません。車大好きなカーガイならできないのではないか。

 富裕層を狙うなら、すでにレクサスがあります。クラウンをリフレッシュして海外戦略車を増やす意味がわかりません。電気自動車の時代を考えたら、クラウンがその対象になるわけがありません。スポーツ、4WDなどを増やしたいのか。それを考えたら、もっと他ブランドがあります。

 草創期からトヨタの経営を支えたクラウンをゼロから変えることが、トヨタの経営を根底から改革することと信じたからでしょうか。的外れとしか思えません。でも、経営の全権を握る王様である豊田章男社長にトヨタ社内で誰も異論を放つことはできないでしょう。新聞、テレビ、自動車関連の雑誌は大広告主ですから、表立ったクラウン批判も期待できないでしょう。

 昨年7月にクラウンのモデルチェンジを発表していた豊田社長の姿が思い浮かびます。王様があえて道化師役を演じ、「100年に1度の変革期」を強調しているかのようでした。。長年クラウンを愛し乗り続けたユーザーの胸の内にはピエロの悲しい表情しか思い浮かばないのではないでしょうか。

日本航空のロゴ、鶴丸

日航は鶴丸を変えた後、経営破綻に

 ブランドは企業にとってとても重要です。過去の事例を思い出します。日本航空の「鶴丸」マークは、日本航空と日本エアシステムの経営統合を受けて2003年に廃止。改革の象徴として鶴丸を捨て去り、新しいロゴを設定した時、ライバルの全日空の経営陣は「あれだけ世界に知られれたロゴを捨てるのは信じられない」と異口同音に話しいていました。

 ロゴマーク変更が引き金ではありませんが、その後は経営苦境に追い込まれます。2001年の米国同時多発テロ、2008年のリーマンショックが相次ぎ、ビジネス需要・国際貨物需要が急減。もともと財務基盤が脆弱だったこともあって2010年1月、日本航空は会社更生法を申請し、事実上の経営破綻を経験します。2011年に復活をめざして鶴丸にロゴを戻しました。

トヨタを支える系列・販売網は盤石だが・・

 日航の場合は予期せぬ相次ぐ事件と経営判断のミスが重なり、経営破綻しました。トヨタは違います。盤石な財務力にデンソー やアイシンを筆頭とする強力な系列が支えています。しかも、販売計画をかならず到達する圧倒的なディーラー網が控えています。クラウンが頓挫したぐらいで経営が揺らぐことはないでしょう。

従業員・現場はピエロのように目を瞑るしか

 それでも首を傾げざるえません。権力の濫用と経営改革は紙一重。王様の前で道化師がどう演じれば、クラウンを捨て去る意味が伝わるのでしょうか。クラウンはその道化師の役を演じる不運に遭っただけなのか。部品メーカーや販売店の従業員は結末に気付いているはずです。今はピエロのように目を瞑るしかないのでしょう。トヨタで始まった異変を予兆している気がします。

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