日立が日産を救済する日 復活の成功体験を注入し、半導体のラピダス方式で再建
日立製作所が日産自動車を救済する「白馬の騎士」として登場するのではないか。ホンダと日産の経営統合が危うい方向に進んでいるとの情報が伝わるたびに「このままでは日産は半導体のエルピーダーになってしまう。誰か助けなきゃ!」と余計な心配をしています。
ホンダとの経営統合が失敗したら・・・
ホンダとの経営統合に失敗した日産を救えるのは企業の体力、技術力など総合力を考えたら、日立しか思いつきません。長年、自動車の技術開発と部品生産に注力し、優れた製品を自動車メーカーに供給しています。次代の主役である電気自動車(EV)についても世界と闘える体制を整えています。日立単独はちょっとしんどいと思いますから、半導体産業の復興モデルであるラピダス方式を踏襲したら、どうでしょうか。日産は経営者がだらしがないだけで、開発力、生産力はまだまだ日本の財産です。EVのみならず、次世代の産業を支える実力を持っているのですから。
日立は、日産を再建する貴重な経験を持っています。日産に劣らず悲惨な窮地に追い込まれました。かつて東芝、三菱重工業などと並んで日本の産業を代表する御三家と呼ばれましたが、時代の変化についていけず他の御三家と同じように凋落の道に迷い込みました。リーマンショックの影響もあって2009年3月期には製造業として過去最大の7900億円近い赤字を計上しています。
しかし、日産と違います。情報システムなど攻める分野を絞り込み、過去のしがらみにとらわれずに子会社を相次いで売却するなど大胆な事業改革を推進して成功を収めます。2014年3月期に過去最高益を更新してからは完全に息を吹き返し、日本企業の中でも頭抜けた経営を維持しています。
日立の経営改革力を日産に
なぜ復活できたのか。キーワードは経営者ですね。2009年、過去最悪の赤字を計上した日立を立て直すため、日立子会社から川村隆氏、中西宏明氏ら呼び戻して日立の社長に据えたのです。歴代の社長は栄光に塗れた「日立」に囚われ、中途半端な経営改革に終始し、失敗を重ねてきました。川村社長らは「日立」をきっぱりと捨てるとともに、「誰かがやってくれるだろう」という大企業病に陥っていた社内意識を一掃します。失敗を恐れずに挑戦する。日立は見違えるほど変身したのです。
これに対し、日産は派手なパフォーマンスに酔い、見せかけの経営改革に終始しました。1990年代から繰り返す巨額の赤字で経営破綻寸前に追い込まれ、1999年にルノー との資本提携で窮地を打開しようとしました。
ゲームチェンジャーのカリスマ経営者を演じるカルロス・ゴーンによって、再生したかに見えましたが、財務上のマジック。見せかけでした。 過去、日産が積み上げた資産とブランドを食い潰し、日産を改革できる経営者を育てることを忘れていたのです。結局は1999年から足踏みを続けていただけでした。ホンダは経営統合に進むためにも、日産に身を切る経営改革を迫っています。果たして日産はできるのでしょうか。
EVの開発・生産体制は整っている
日立は次代のEVに向けてすでに体制を整えています。2021年1月、日立の自動車事業部ともいえる日立オートモーティブシステムはエンジン関連部品のケーヒン,ショックアブソーバーなど足回りのショーワ,ブレーキの日信工業の3社と経営統合し,日立Astemoを設立しました。4社が合体したことで自動車の基本性能である「走る」「曲がる」「止まる」をすべて1社で供給できる世界でも珍しい部品メーカーとなりました。日立が強い情報システム、エレクトロニクスとの相乗効果を考えれば、世界のEV開発に負けるとは思えません。
しかも、ケーヒン、ショーワ、日信工業いずれもホンダ系部品メーカーでした。日産と経営統合するかどうかはわかりませんが、日産とホンダが進めるEV協業を進めるうえで大きな助けとなります。
もちろん、厳しいキャッシュフローに直面する日産を財務面で支える支援体制を忘れるわけにはいきません。官民ファンドの産業革新投資機構などを活用するほか、EVに欠かせない技術を保有する企業を多数巻き込んで、EVの基幹部品やソフトウエアを開発する財務力と推進体制を再構築します。
エルピーダの悲劇は避けたい
日産が経営破綻したら、経済的な波及効果は大きいですが、最大の資産である技術と経験の散逸も無視できません。海外の企業に買収でもされたら「もったいない」の一言に尽きます。エルピーダ・メモリーの破綻を思い出してください。サムスン電子など韓国勢に比べ資金力は劣っていましたが、ナノレベルの半導体の開発・生産技術では世界最先端を走っていました。しかし、破綻によって技術は雲散霧消。世界トップの座にあった日本の半導体は今や、台湾、韓国、中国、欧米の背中を遠くから眺める立場です。自動車、とりわけEVでこの悲劇は2度と見たくありません。