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ホンダが消える32「四輪事業はなぜ赤字転落するのか」 答;迷路から抜け出せないクルマ創り

 いつものように散歩している時でした。時間制の駐車場にホンダ「HR-V」を見つけました。とても好きな車でしたから、うれしくて思わず写真を撮っちゃいました。初代が誕生したのは1998年。家族が増えていたので諦めましたが、独り者だったら絶対に購入したクルマでした。7年後の2005年には生産終了していますから、短命なクルマでしたが、私の脳裏にはしっかりと焼き付いています。

散歩中に「HR-V」を発見

 洒落た呼び方をすれば、クロスオーバーSUVの先駆。トヨタ自動車「ランドクルーザー」、三菱自動車「パジェロ」で荒地を走る気持ちは全くないけれど、アスファルト以外の舗装していないダートや雪道などを時々自由に走り回りたい。でも、セダンやワンボックスじゃつまらない。自分は外見ばかり気にするセダンを乗り回す人間とは違う。行きたいと思った場所にすぐに向かう行動力を満たすクルマが欲しい。こんなイメージですか?

 最近の流行しているグランピングみたいなものです。キャンプなどのアウトドアに憧れるけれど、野宿はとんでもない。ベッドも食事もホテル並みにしてほしい。気持ちはアウトドアだけど、実際の宿泊はホテル、それも三つ星以上。ユーザーが抱える矛盾と勝手な思いの両端をクロスオーバーするコンセプトカーですね。

アウトドアは好きだが、気分はキャンプよりホテル

 エンジンは1・6リッターで4WDも設定されていました。発売当初は3ドアだけ。開発陣の思い切りの良さに拍手!!。1995年に登場した小型クロカン「CR-V」のヒットに触発されて開発されましたが、きれいに整備された道路を走る使い勝手の良いクロカンをイメージしています。それでも、あえて路面から車体までの高さ多めに設定。気分次第で荒地を走っても、ボディーを擦る心配はないとアピールするあざとさが憎い。1年後、5ドアを追加し、使い勝手がさらによくなりました。駐車場で見かけたHR-Vは5ドア。2005年に生産終了していますから、20年近くは乗っているのでしょう。手入れがきれい。脱帽です。

 時代を先取りするトレンドセッターに位置付けられるクルマでした。思い切りの良い開発・設計でしたが、国内販売は予想を下回り、発売からわずか7年間で生産は中止。しかし、海外では高い人気を集め、2013年に登場した「ヴェゼル」に「HR-V」の名前を付けて、ヒットしています。

テスラ「モデルY」に継承され、世界で大ヒット

 HR-Vのコンセプトは今、世界で大ヒットしているクルマに受け継がれています。どのクルマだと思いますか。電気自動車(EV)のテスラが世界的にヒットさせている「モデルY」です。このクルマはセダン「モデル3」に比べ車内空間や荷物を置くスペースが広く、設計のコンセプトは「クロスオーバーSUV」。EVですから、もちろん4WD。車体デザインは、角が目立つクロカンと違って丸みを帯びた近未来的なイメージを放ち、使い勝手はセダンより良い。内燃機関のエンジンは消えましたが、車創りの基本は「HR-V」をコピペしています。

 「HR-V」は不運にも誕生するのが早過ぎたのかもしれません。しかし、20年後の自動車市場を見事に先取りし、体現していました。開発したのはホンダです。世界の新しいトレンドとしてSUVの主導権を握るクルマに育て上げられなかったのもホンダです。「良いとこまでいっているのに、結局はヒットの芽を育てられず、売れない新車ばかりに」。ホンダが過去、数え切れないほど繰り返してきたことです。

先駆で躍り出るも、成功を手にできない

 だからでしょうか、ホンダの四輪事業が再び赤字に転落しても、驚かなくなってしまいました。

 6月下旬、5月の決算発表後に約148万台のリコール費用586億円を計上したため、420億円の黒字から166億円の赤字に転落することを明らかにしました。四輪事業の赤字は東日本大震災や円高の影響を受けた2012年3月期以来11年ぶり。四輪事業の収益力の弱さはこれまでも指摘されてきましたが、リコール費用を加える前の営業利益率はなんと0・4%。

 不振の理由は半導体不足などで生産が追いつかず、中国市場の急激な冷え込みが大打撃となったそうです。決算直前の2023年1−3月期は709億円の赤字というのですから、これにはさすがに驚きます。

四輪は10兆円売っても利益が出ない不思議

 なにしろ四輪事業は売上高10兆円5935億円を計上しながら、営業利益は420億円だけ。ホンダを支えるもう一つの柱である二輪事業は2兆9089億円と3分の1の売り上げでありながら。営業利益は10倍以上の4887億円を達成しています。四輪事業の弱さにため息しか出ません。

 苦戦は今に始まったわけではありません。

 4年前の2019年5月、当時の八郷隆弘社長が決算会見で強調したのが「四輪事業の体質強化」と「電動化の方向性」。苦境から抜け出せない四輪事業を抜本的に構造改革すると宣言しました。

過去の大風呂敷のツケを拭えない

 前任の伊東孝紳社長が「世界6極体制、2016年度に600万台」という壮大な目標を掲げましたが、実現どころか数字ばかり追いかけた結果、派生車の増加など無駄だけが増え、生産効率も販売効率も低下。八郷社長は数字を追う経営計画を撤回するとともに、創業以来新車開発を主導してきた本田技術研究所の役割を縮小、開発から生産、販売までの一体化を進めました。

迷路は鏡張り、迷う自身の姿に戸惑う

 八郷社長から三部敏弘社長へ移っても、改革の歩みは続いています。それでも四輪事業が苦境から抜け出す出口は見えません。なぜなら、「HR-V」で経験した失敗の教訓は活かされず、後の新車開発でも繰り返されているからです。自信を持って、新車を送り出すことができない。売れなかったら、やり直す。

 まるで迷路に入り込んだようです。出口を探しても、ゴールへ向かう道筋を見つけることができない。向かう先は右か左か、あるいは直進か。周囲を見回しても、迷う自身の姿ばかりが映る。ホンダがはまり込んだ迷路は、鏡が張り巡らされているかのようです。

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