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ホンダと日産の経営統合、予想通りご破算 EV協業は「M資金事件」みたい
ホンダと日産自動車が協議していた経営統合が予想通り、ご破算になりました。元々、無理筋でした。巨額な投資が求められるEV開発を協業によって成し遂げる建て付けでしたが、両社の思惑があまりにもかけ離れていました。赤字寸前の窮地にある日産にとって、ホンダは天国から垂れ下がる蜘蛛の糸。EVなんて二の次、まずは経営不安を一掃する蜘蛛の糸を握りしめたい。一方、ホンダは日産救済によって政府や主力銀行の支援を受けて、資金と人材を確保できると欲張りました。
当初から結末は一目瞭然
結末は自動車産業を40年取材してきた新聞記者からみれば当初から一目瞭然。統合の前提とした大胆なリストラが難航する日産を見て、ホンダが子会社化で主導すると転換するのは当然ですが、日産から見ればリストラできないからホンダに頼ったわけです。対等で統合するはずが、突然子会社化という無理難題を突きつけられたら話が違うと開き直るのも、これまた当然。統合協議の過程と結末を読めないホンダの甘さだけが後味悪く残ります。
どんなに賢明な経営者でも経営判断を見誤る瞬間があります。とりわけ会社が瀬戸際に立たされた時、目の前にある巨額資金に目が眩み、危ういとわかっていても思わず手が出てしまうことも。一気呵成に浮揚するチャンスは今しかないと思えば、なおさらです。100年に1度の変革期を迎えた自動車メーカーにとって「まさに今、この瞬間」と経営判断したら、勝負に出るのもわかります。
ホンダの三部敏宏社長は、まさに「今、この瞬間」と考えたのでしょう。2021年4月に就任した三部社長は、直後の記者会見で2040年には全ての新車をCO2を排出しないEV、燃料電池車に全面転換すると宣言しました。地球温暖化を招く元凶としてエンジン車は考えられ、欧米の自動車メーカーでEVへ切り替える動きが広がり、世界の潮流となっていました。
EV開発には兆単位の資金が
ホンダは日本車でいち早く全面転換を打ち出したものの、その体力は不足していました。4輪事業が全然、儲かっていなのです。2018年以降を振り返ると、何度も半期で赤字に転落。2022年度は通期で赤字を計上しましたが、売上高が下回る二輪車事業の利益で救われたほどです。2024年3月期は黒字に復帰しましたが、まだまだ青息吐息。
EVの開発は莫大な資金が必要です。車の性能を決めるソフトウエア開発には何兆円もかかるそうです。ホンダの財務力や技術力の現状を考えたら、2040年に全面転換すると宣言したものの、この巨額の資金にどう対応するのか。悩むのは当然です。
三部社長はわかっていたはずです。日産がパートナーとして適当だったのか。日産の内田誠社長はリーダーシップが足りず、日産社内をまとめることができていません。2024年9月中間期で事実上利益ゼロの業績に追い込まれても、経営改善できるリストラを実行できるのか疑問。ただ、資金が枯渇寸前とはいえ、EVの経験が豊富な日産は三菱自動車を傘下に抱えており、背後には日産を経営破綻させたくない政府や銀行の強力な支援が控えています。
危うい経営統合だとは承知していても、兆円単位の資金調達と人材を手立てできるなら、日産を飲むこんでも良い。統合交渉は対等を前提にしながらも、途中で子会社化へ切り替え、リストラを断行すればホンダも日産も結果的に救われる。こう腹を括ったのでしょう。
数兆円の資金に目が眩み、経営判断で平常心を失ってしまう。「M資金事件」を彷彿します。戦後、日本を占領したGHQが接収した財産などを元手にした秘密資金とまことしやかにいわれ、大企業の経営者らが事件に巻き込まれました。全く架空の資金であるにもかかわらず、金額は数兆円、何千億円との憶測が流れ、全日本空輸や東急電鉄などが被害を受けました。
かつてホンダも日産もM資金事件に
そういえばホンダも日産も、かつて「M資金事件」に巻き込まれたとの憶測が駆け巡ったことがあります。噂にすぎませんが、よくできた噂でした。1990年代、偶然にも両社とも将来は社長候補と目された優秀な副社長が巻き込まれたといわれました。経営環境も似ていました。バブル経済が崩壊し、業績は悪化。販売や生産など会社の屋台骨を建て直すためには巨額資金が必要でした。頭脳明晰な人物でありながらも、この窮地を脱する思いが強過ぎてしまい、M資金に目が眩んだのかもしれません。真偽は不明です。
ホンダと日産は経営統合を白紙に戻した後も引き続きEVの開発で連携するそうです。ただ、経営統合まで踏み込んだ両社が将来の命運を握るEV開発で信頼関係を維持できるのでしょうか。ホンダと日産が2024年1月にEV協業で業務提携を発表してから1年間が過ぎましたが、世界の勢力図はわずか1年間で激変しています。中国のBYDは世界トップを走っていた米テスラに追いつき、もうすぐ追い抜きます。ホンダと日産にとって足踏みをしている時間はありません。