ホンダが米ゼネラル・モーターズ(GM)と取り組んでいた中小型の電気自動車(EV)の共同開発を中止しました。2022年4月に提携を発表してから1年半後で中止です。バッテリーなど車の生産コストが期待する水準に到達せず、他社との価格競争力を保てないと判断したようです。「From to ZERO」で連載している「ホンダが消える」でかねて指摘している通り、パートナーがGM、あるいは自動車メーカーである限り越えられない壁です。当然の帰結です。わずか1年半後にプロジェクトを中止した事実が物語っています。このままでは米テスラや中国のBYDには太刀打ちできません。今こそ大胆な発想で新たな提携先を選び、決断するチャンスです。
大胆な発想で新たな提携先を選ぶチャンス
ホンダが2022年4月に発表したGMとの提携内容は、50億ドルを投じてアジアや欧米で中小型車のEVを共同開発し、2027年以降に販売する計画でした。日本経済新聞などによると、GMが開発した電池を搭載し、価格は3万ドル程度を見込んでいました。日本円で450万円前後。公的な助成金を利用すれば、割安感はありますが、世界で本格化しているコストダウン競争を考慮すれば4年後の価格水準としてはむしろ割高となるかもしれません。
共同開発中止の詳細な内容は不明ですが、電池や新車開発のコンセプトで合意できなかったそうです。ホンダの見通しの甘さを指摘せざるを得ません。実はGMとの提携関係は長く、1999年に傘下のいすゞ自動車からのディーゼル供給を皮切りに2013年には燃料電池車でも共同開発を開始。過去の提携の成果についてはちょっと疑問がありますが、とにかく両社の協力関係は長いのです。
GMとの提携中止は見通しの甘さを露呈
ホンダの技術陣はGMの実力を十分に理解していたはずです。それが共同開発を発表してからわずか1年半で中止に。十分に企業化調査したの?と訊きたくなります。すでに着手しているSUVなどの共同開発車、直近で発表したばかりの自動無人タクシーの計画は予定通り進める方針ですが、こちらも先行きは楽観できないでしょう。
あえて予想外と表現しますが、全米自動車労組(UAW)が展開するストライキもGMのEV戦略に修正を迫りました。UAWはエンジン車からEVへのシフトを念頭に大幅な賃金引き上げと雇用確保を求めています。1980年代から米国で四輪車を現地生産しているホンダです。UAWが本気を出したら、どういう事態が起こるのか十分に知っています。
実際、GMは2024年半ばまでに北米で累計40万台のEVを生産する目標を取り下げました。ホンダはGMが開発したバッテリーを採用する計画でしたから、GMの量産計画が下方修正されたら、それだけ生産コストが割高に。テスラなどを追い上げる立場のホンダにとって大きなハンディキャップを背負うことになります。
しかも、EVをめぐる世界の競争は激化しています。世界をリードしてきた米テスラをBYDなど中国勢が猛追。2022年の中国のEV販売台数は前年実績比82%増の536万台と急増しました。中国政府の後方支援があるとはいえ、バッテリーなどEV関連の部品を量産する中国のコスト競争力は他のメーカーを圧倒し始めています。とりわけ世界トップを目指すBYDは自社でバッテリーを生産しているだけに、これから追いかける日本勢などは価格競争力で勝ち目はないでしょう。
自動車メーカーと組んでもテスラやBYDに勝てない
主力市場を睨んだ量販車に関するGMとの提携解消は、これから勝ち残るためには既存の自動車メーカーと組んでも勝利を手にできないことを教えています。すでにホンダはソニーと提携し、EVモデル「アフィーラ」を発表し、非自動車メーカーとの協力関係強化に踏み出しています。韓国のバッテリーメーカーとも巨額投資で合意しています。
まだ足りません。EVの価格競争で中国と真っ向勝負したら、どうでしょうか。先行利得として生産コストダウンに成功している中国と闘っても、消耗戦が続くだけかもしれません。ソニーと共同開発する「アフィーラ」はエンターテイメント機能などで新しい技術を盛り込むため、高級車になる見通しです。テスラやBYDとまともに競合しないEV市場を創造するのか。あるいは車の常識を打ち破る生産方式や機能を考案し、新たな競争の舞台を演出するのか。
やはり正解はアップルかも
テスラやBYDに追いつき、先行メーカーを超えるEVを開発するためには、優れた情報技術を持ち、新市場を創造できる企業と手を組むしかありません。ホンダがアップルをパートナーに選ぶ日が近づいているようです。