• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

2035年イグアナとハイブリッド車① ガラパゴスからEVを見詰める風景

 米カリフォルニア州が2035年、ハイブリッド車の販売を禁止することを決めました。すでにガソリン車の販売禁止が決まっており、日本の自動車メーカー、とりわけトヨタ自動車はとうに覚悟ができていたはず。ただ、同州の規制強化は世界に広がります。1970年代の排ガス規制で名を馳せたマスキー法を思い出せば、私たちがこれから目にする変革が想像できます。排ガス規制は全米に広がり、そして世界基準へ。不可能ともいわれた規制をいち早く対応したホンダは世界の自動車メーカーへの扉を開きました。EV市場ではすでにカルフォルニア州に工場を持つテスラが世界を席巻しています。歴史は繰り返す。EVはガソリン車のみならずハイブリッド車も駆逐するのでしょうか。

マスキー法はホンダを、EVはテスラを世界メーカーへ

 ガソリン・ディーゼル車の販売禁止の波は欧米、中国を中心に広がっています。北欧のノルウェーはテスラが大人気でEVは新車の6割以上を占めており、2025年から禁止が始まります。後を追うように欧州連合(EU)が2035年までに原則禁止する方針を決めています。米国は自動車が基幹産業だけに雇用などの影響を心配し規制反対の声が根強いですが、すでに26年の平均燃費を21年に比べ3割以上も改善する新基準を公表しています。今後、米国各州がカリフォルニア州に続いてEVシフトする流れは加速するでしょう。

 世界のEV大国である中国は2007年ごろから優遇政策を開始して自動車政策の柱として推進しています。激しい大気汚染が深刻化しているうえ、世界最大級のCO2排出国としての批判をかわす狙いもありますが、補助金制度などを使って外国車を事実上排除し、中国の自動車メーカーを育成しています。35年までにガソリン・ディーゼル車を禁止し、EVやハイブリッド車に移行する流れです。日本は35年までに乗用車の新車販売をEVに切り替えるよう求めていますが、自動車産業への打撃を抑えるため欧州ほどの劇的な厳しさは見当たりません。排ガス規制で先駆の東京都でも30年までに新車販売の半分をEVにする目標を設け対応策を検討している段階です。

2035年にすべてがEVになるわけではない

 コンピューターソフトの世界と違って、2035年が訪れたら世界の自動車がすべてEVに切り替わるわけではありません。ガソリン・ディーゼル車の販売禁止といっても、課金される罰則規定がある国、無い国とあって強制力に差があります。しかも、ガソリン車からEVへシフトするといっても、中国のみならず自国産業にプラスになるよう政策を繰り出すしますから、カーボンニュートラルの美名の下でガソリン車が消え、EVだけが走ることはありません。

 しかもEVを普及させようとしても、クルマの原動力であるモーターを動かすために必要な電気を供給する能力が大きなボトルネックになります。ガソリンスタンドと違ってEVの充電拠点の整備として送電線や施設の新増設が必要です。脱炭素を堅守しながら電力を生み出すには原子力発電所や太陽光など再生利用可能エネルギーを増やすしかありません。実現には巨額の発電投資と時間が必要です。待ち構える難問をクリアできる国は何カ国あるのでしょうか。自ずとどこかでブレーキがかかります。

世界の過半はまだガソリン車とハイブリッド車が走っている

 2035年の自動車の風景を想像してみました。EVは欧米を中心にかなり普及しています。中国も北京や上海など大都市で大半を占めていますが、地方はまだガソリン車とハイブリッド車が主力です。日本は日産自動車やホンダ、三菱自動車が全面的に切り替えていますが、トヨタ自動車など他メーカーはEV、ハイブリッド、ガソリン・ディーゼルなどを引き続き生産しています。アフリカなど発展途上国は電力や充電などのインフラが制約となって、ハイブリッド車やガソリン・ディーゼル車が過半を占めています。

 しかし、1990年代、欧米で環境エンジンとして輝きを放ったハイブリッド車は、発展途上国のエネルギー事情に対応できる熟成したシステムとして生き残るだけです。

 100年以上前に誕生した自動車は内燃機関のエンジンとともに進化し、世界経済の成長を担ってきました。そして19世紀、20世紀の2つの世紀を経て迎えた21世紀、エンジンを捨て電気とモーターで走る自動車へ生まれ変わります。生物に例えれば、CO2排出しながら成長してきたクルマは、今後はCO2排出を抑制するクルマに転身を遂げます

 自動車進化論があるとすれば、ハイブリッド車は「ガラバゴス諸島に生息するイグアナと同じ」と評されるかもしません。イグアナは砂漠から熱帯樹林まで様々な環境に対応できる生息能力が高い生物です。ガラパゴス諸島にはサボテンを餌とする陸イグアナのほかに、陸の厳しい生存競争から海に潜水して海藻を食べる海イグアナもいます。

ハイブリッド車はイグアナの生息能力に似ている

 ハイブリッド車が地球上で生息する地域はガラバゴス諸島よりは広いでしょう。2035年でも地球の過半は占めるのではないでしょうか。しかし、いつかはEVが世界を覆う時が訪れます。地球温暖化の影響は猛暑や干ばつ、台風などの災害を頻発に引き起こし、人類の生存に対する危機意識を高める一方です。自動車産業は存続するためにも開発・生産の主軸をEVへシフトせざるを得ません。しかも、その頃の自動車産業はEVとエンジン双方の部品生産、開発、組み立て工場を維持できるほどの体力が残っていないはずです。ハイブリッド車の衰退は必然なのかもしれません。

 「ハイブリッドイグアナ」って知っていましたか?2000年代にガラパゴス諸島で発見され、陸イグアナのようにサボテンを食べ、食べ物がなければ海イグアナのように海に潜って海藻を食べることができます。陸、海両種のイグアナの交雑によって誕生するので、単体そのものの繁殖能力はないそうですが、地球温暖化の進行で陸と海で起こる気候変動に合わせて、生存できる能力を持っているとみられています。なにかハイブリッド車の近未来を先取りして体現しているようです。

 次回、気分だけガラバゴス諸島を訪れて、イグアナの目からハイブリッド車とEVの生息能力を考えてみます。

関連記事一覧