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スバルは米国などで高いブランド力

日本車、25%関税は経営改革のチャンス、40年前の超円高で見せたフットワークを再現して

 日本の自動車メーカーの中で、にんまりと笑みを漏らした経営者がいたら、うれしいです。トランプ大統領はすべての輸入車に対し25%の追加関税を課すと表明しました。日本車の米国輸出額は年間6兆円を超えます。日本からの輸入車の価格が上昇するのは必至。日本からの輸出低迷、米国内の販売不振とダブルパンチで大きな打撃を受けると心配する声が大半です。

1985年のプラザ合意で円は急騰

 果たしてそうでしょうか。1985年9月のプラザ合意を思い出してください。日米欧の先進5カ国財務相・中央銀行総裁は巨額赤字が続く日米の貿易収支の改善などを理由にドル円相場を大幅に変更することに合意。わずか1年間でドル円は240円台から160円台まで急騰しました。なんと30%近い上昇幅です。トランプ大統領の25%追加関税を軽く超えます。

 当時はホンダ以外の日本車は米国現地生産が進んでおらず、超円高によって日本国内の自動車・部品各社が受ける打撃は現在よりはるかに大きいものでした。プラザ合意は日本経済を足元から揺るがす経済事件だけに、多くの経営者は真っ青に。私は経済紙の自動車産業担当記者でしたから、早速新聞紙面で「円高不況」という連載を開始しました。

 幸いにも予想した深刻な不況は見事にはずれました。自動車・部品メーカーは米国での現地生産を一気に拡充してドル円相場の影響を回避する一方、日本車の代名詞だった「安くて故障しないクルマ」に加え、欧州の高級車に負けない上級車の開発を加速します。目の前の危機に躊躇せず経営改革に挑んだフットワークの軽さが1990年代、日本車に世界最強の競争力をもたらしました。プラザ合意が日本の自動車メーカーの背中を押すショック療法になったと理解しています。

 余談ですが、おっとり刀で開始した連載企画「円高不況」はいつのまにかに「円高革命」にタイトルを改め、超円高が日本企業の経営改革を追う前向きな連載企画に変貌してしまいました。自分でも驚きました。そして、その数年後に日本はバブル経済に突入します。

米国車は恩恵を受けたのか

 米国の自動車メーカーはプラザ合意の恩恵を受けたのでしょうか。円急騰という貿易障壁に守られた米国メーカーは、日本車に対抗できる小型車開発に力を入れましたが、結局は1台あたりの利益が大きい大型車に依存する経営から脱することができません。1980年代に世界のビッグスリーと呼ばれた米国3社は現在、GMとフォードはかつての栄光と威厳をなんとか維持していますが、世界の自動車市場のメインプレーヤーの座から降りています。クライスラーは存続するため、欧州車との統合を選びました。

 40年前の経済事件と単純比較はできませんが、今回の25%の追加関税が本当に米国経済に恩恵をもたらすのか疑問です。トランプ大統領は「米国第一」を掲げ、海外に拡散した製造業の回帰を重要政策と考え、決定しました。輸入車などに高い関税障壁を設定すれば、米国メーカーが輸入車との価格競争で優位に立つのは当然ですし、海外メーカーも影響を最小限に抑えるために米国現地生産を拡大するでしょう。

 しかし、それは短期間だけ。プラザ合意後の事実が証明しています。自動車に限らずアップルなど海外生産に頼ってきた製造業が米国に回帰し始めていますが、工場は組み立て玩具「レゴ」のように部品を集めれば、製品が完成するわけではありません。生産ラインを支える設備、熟練した人材をわずかな期間で揃えることはできませんし、移民規制を強化するわけですから人件費の抑制効果も期待できないでしょう。工場が完成したとしても、計画通りの品質を維持しながら生産できるには数年の時間が必要です。

 むしろ、米国企業の中には25%の追加関税を助け船と捉え、経営努力を怠る企業が出るはずです。一度始まった米国製造業の地盤沈下を止め、復活させることは追加関税には荷が重すぎるのです。 

日本車はEVなど次代を睨み、経営改革を

 日本の自動車メーカーにとっては大きなチャンスが目の前にあります。プラザ合意を乗り切った日本企業は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と賞賛されるほど成功しました。もっとも、その後のバブル経済に悪酔いしたまま、経営改革を忘れてしまった日本は、30年間も経済成長も年収もゼロ成長のまま。超円高や追加関税よりも、自ら経営改革する努力を忘れることがより怖いのです。

 日本は絶体絶命の瀬戸際に立つと、ようやく本気を出す悪い癖があります。日本の自動車メーカーは追加関税など無理難題を繰り出すトランプ大統領に感謝しながら、出遅れていた電気自動車(EV)や人工知能(AI)などの技術開発と実用化を加速しましょう。世界に躍り出る力を取り戻し、2度目の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の呼び声を浴びるかもしれません。さすがに甘すぎるかな(笑)

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