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JERAに諸刃の剣 LNG調達に貿易保険 脱炭素の加速?化石燃料を温存?

 電力会社のJERAが日本貿易保険の適用を日本国内の企業として初めて受けるそうです。三井住友銀行がJERAに設定する1000億円の融資が対象。JERAは世界最大級のLNG(液化天然ガス)ユーザーで、地域紛争や獲得競争の激化で調達リスクが高まっている今、調達先の多様化でリスク分散するのが狙いです。もっとも、JERAは太陽光や風力、アンモニアという化石燃料以外での発電能力を増やし、「CO2を排出しない」を謳っています。LNGの調達リスクの分散は化石燃料による火力発電の温存につながり、結局は「CO2の排出」を堅持する諸刃の剣になりかねません。

LNG発電は日本が先駆け

 貿易保険はこれまで日本企業が国外事業に参加するプロジェクトに対する投資、あるいは日本の銀行が日本企業の海外子会社へ融資する案件などが対象になってきました。今回、初めて日本を本拠地にした日本企業のプロジェクトとして適用を受ける背景には、LNGを取り巻く環境の激変にあります。

 LNGは資源が乏しい日本が石炭、石油に続く柱として拡大を急いだエネルギーです。1969年、アラスカから輸入したのを機に調達先は中東地域を軸に拡大の一途を辿っています。石炭や石油に比べてCO2の排出量が少ないこともあって、東京電力が世界で初めてLNGの発電所を建設するなど需要は増え続け、最近まで東電は世界最大の輸入ユーザーでした。

 JERAは2015年、東京電力と中部電力が折半出資で設立したエネルギー会社です。東電と中部電の火力関連の事業を統合したことで両社のLNG輸入を引き継いでいるため、輸入量は世界最大級です。世界10カ国から長期契約を結んでLNGを輸入しており、受入基地など巨大設備を抱え、LNGの開発から輸送、発電に至るまでのバリューチェーンは文字通り収益源です。

化石燃料が今後も収益源

 ホームページを参考にビジネスモデルを見てみます。事業開発、エネルギーの最適化、運転保守・エンジニアリングの3本柱で構成されており、石油・ガスを産出する上流から発電までの下流までの過程それぞれで利益を上げる構造です。JERAが取り扱う化石燃料、再生可能エネルギー、アンモニアなど脱炭素型燃料などのコストを見比べながら、発電構成を最適化するる経営戦略と理解しますが、カーボンゼロを掲げているとはいえ、石油や石炭が減ったとしてもLNGの消費量が減るとは思えません。そのビジネスモデルを考えればLNGの調達先のリスク分散はJERAの事業継続のために必須でした。

 それだけに石炭、石油など他の化石燃料による発電、エンジニアなども活用しながら、エネルギーの最適化を図るものの、その結果はCO2排出の火力の温存につながります。ただ、LNGを含め化石燃料をゼロにすることは非現実的です。政府はカーボンニュートラルに向けて原子力発電の再稼働・新増設へ政策転換しましたが、再稼働はともかく新増設も非現実。

 JERAの社名には「日本の新しいエネルギーの時代をつくる」という思いを込めています。2050年を目標にCO2排出を実質ゼロにするゼロエミッションを掲げており、石炭火力発電所の燃料をアンモニアに置き換える取り組みも開始しています。ただ、アンモニアを生産するためには依然、化石燃料よるエネルギーを利用するのですから、脱炭素の切り札というにはちょっと迷います。CO2を排出しながら、CO2を実質ゼロにする挑戦は矛盾するように見えますが、対峙すると決めたのはJERAです。

化石賞が吹き飛ぶ挑戦を

 地球温暖化の抑制に向けて討議する国連の気候変動会議COP28の開催中、民間団体から日本は米国やニュージランドと並んで化石賞が授けられました。石炭火力などの温存がその理由だそうです。JERAは、化石賞を掲げる国際的な批判に対する回答を示す会社の一つです。LNGの調達拡大を進めながらも、火力発電の温存を避け、ぜひ化石賞を吹き飛ばす脱炭素加速の旗手となって欲しいです。

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