企業統治がジャニーズで試される 建前と本音の使い分けはもう通用しない
志は高くても、実践は難しい。「言うは易し、行うのは難し」を持ち出すまでもなく、我が身を振り返っても思わず下を向くしかない経験は数え切れない。建前と本音を使い分けるのが大人として生きる道と熟知していますが、あまりにも建前と本音がかけ離れてしまうと本来の建前が何のためにあるのかわからなくなってしまうぐらいの覚悟は忘れたくない。最近の企業不祥事を見ていると、仮面を被った実の顔が見えてきただけなのか。もともと仮面する被っていなかったのかもしれないという怖さを覚えます。
「言うは易し、行うのは難し」はわかるが
今、企業経営者の決断力がまるで「ジャニーズ」に試されているかのようです。長年にわたる同事務所創業者による未成年者への性加害は、芸能界、テレビなどメディア経営を根底から揺るがす問題に発展しています。波及はどんどん広まっています。ジャニーズ事務所に所属するタレントを起用する番組や広告に対し、スポンサーとして金銭を支払う大企業についても性加害に対する姿勢を問われています。
アヒサビール、キリンビール、サントリー、日産自動車、東京海上日動火災保険、日本航空、ライオン、ヤマト運輸など日本を代表する企業がスポンサーとしてどう対応するかを表明しています。番組や広告の契約継続を取りやめる企業もありますし、ジャニーズ事務所の今後の対応を見極めたいとする考えを示す例もあります。番組や広告の内容など条件に違いがあるので、一様な対応となるわけではありませんが、問われるのは性被害に対する企業姿勢です。
子供への虐待は国際的な非難の的に
経済同友会の代表幹事を務めるサントリーホールディングスの新浪剛史社長が会見で明言しています。 「チャイルド・アビューズ(子供に対する虐待)を認めることになり、国際的にも非難の的になる」。
Chiid Abuseと呼ばれる未成年者に対する性被害は欧米では非常に大きな問題になっています。日常生活はもちろん、キリスト教の牧師や司祭による少年らへの加害行為はここ数年、糾弾されています。2022年2月には英国の公共放送BBCが、前ローマ教皇のベネディクト16世がドイツで大司教を務めていた当時、教区で発生した性的虐待事案への対応に誤りがあったことを認めるニュースを流しました。
ジャニーズの創業者による性加害がここまで大きな問題に発展したのもBBCがキッカケです。2023年3月にドキュメンタリー「Predator;The Secret Scandal of J-Pop」を放送しました。プレデター、捕食者という表現に驚きます。創業者のジャニー喜多川氏による性加害は週刊文春がかねて報じており、一部は民事裁判で認定されています。それでも、まだ日本の音楽ビジネスに貢献した人物として崇拝されていると伝え、捕食者から目を逸らし続けた日本の実相を指摘しています。
曖昧な姿勢は許されない
その後の経緯は不要でしょう。日本の芸能の世界を欧米の物差しで推し量って、その判断を受け入れろというわけではありません。しかし、性加害・被害は論外です。番組や広告にスポンサーとして関与する企業は、その性加害・被害に関する当事者ではありませんが、曖昧な態度を示し、事実上容認するならは少なくともESGの視点から評価を大きく下げるのは間違いありません。
企業統治、流行の言葉ならガバナンス。大企業のトップなら誰もが口にするESGは環境(Ecology)、継続性(Sutainability)、企業統治( Governance)で構成され、経営者が率先して実践しなければ最大の理念の一つです。米ニューヨークの「自由の女神」が右手を挙げてかざすたいまつのように理想として光り輝くものですが、現実の世界はまだまだ理想には程遠い。だからこそ試行錯誤を重ねながら、しっかりと手中に収める努力を続けなければいけません。
「日本的経営はわかりにくい」は過去の遺物
日本の企業統治は海外からわかりにくいと批判されています。1980年代、日本的経営として持て囃され、世界一との称号に酔い、今でも「日本の経営は海外に理解してもらうのは難しい」と話す経営者もいます。しかし、世界の金融市場は、対外的なわかりやすさ、説明能力、ESGを軸にした企業理念と実践を明確に精査して、投資案件として判定します。東京証券取引所も株式上場を評価する基準として企業統治(ガバナンス)を重視しています。
それは消費者の目線から見ても同じです。未成年者に対する性加害・被害は一例に過ぎません。ESGという視線にとどまらず、幅広く見極める動きは広がっています。「ESGの建前は理解しているが、そのまま実践したら経済や社会がうまく回らない」という発言を繰り返す経営者を見かけます。建前と本音の使い分けに長けることが経営者の器量の大きさと勘違いしていることに気づいていないのでしょう。
ジャニーズ事務所の対応で右往左往する企業の様はとても見てられません。周囲を見渡して対応を決めるよりも、自らの理想をしっかりと追求しましょう。