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  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

Kawasaki のゼロとは、製造業のNinjaは、水素で飛翔する

 「飛燕」はオーラを発していました。2016年10月、神戸市のポートアイランドで開催した川崎重工業の「創立120周年記念展」を訪れました。神戸市は創業の地。記念展のサブタイトルには「世界最速にかけた誇り高き情熱」。アツいです。

創立120周年のイベントで飛燕とNinjaが

 展示の主役は飛燕とNinjaH2R。飛燕は太平洋戦争中、当時の川崎航空機が手掛けた世界レベルの戦闘機。ドイツの技術を導入して開発した日本初の水冷エンジンを搭載し、形状が似ていることから「和製メッサーシュミット」と呼ばれたそうです。

 NinjaH2Rは時速400キロを記録した高速バイクとして世界のライダーから人気を集めています。東京モーターショーの展示では二輪車は四輪車に比べて影が薄くなりがちですが、川重のコーナーだけは展示も豪華で人混みも頭抜けています。創立120周年の会場は飛燕とNinjaが主役。多くの人が詰めかけていたのも当然です。

 川重の魅力は高い技術に誇りを持ち、自ら強烈に訴える個性にあり、それを美学と自負するところ。日本の企業で数少ない製造業の1社です。その会社がカーボンニュートラルに取り組みます。

事業再構築のキーワードは水素

 キーワードは「水素」。水素は燃焼した後に残すのは水だけ。脱炭素の切る札として期待されているクリーンエネルギーの代表です。

 川重は将来を支える大きな柱としてエネルギー・環境ソリューション分野に期待をかけており、その中核事業として水素の実用化に向けたプロジェクトをスタートしています。イメージは水素の調達から配送、貯蔵、燃焼まで一連のサプライチェーンの構築。水素は石油や天然ガスと違って起爆性が高いため、貯蔵タンクなどで高い技術力が求められ、取り扱いが難しい。これまで築き上げたサプライチェーンをそのまま利用できないのが普及を阻害しています。

 しかも、水素をCO2を発生させずに完全にカーボンニュートラルとして生産するためには太陽光発電など再生可能エネルギーを利用することになり、この条件を満たすためには広大の用地が必要です。日本はオーストラリア企業と組んで現地で水素を生産、それを専用タンカーで輸送して日本へ輸入し、一旦貯蔵して発電所などへ輸送する手順。サプライチェーンの画は出来上がっていますが、現在はいわばジグソパズルと同じ。重要なピースが空いたまま。

サプライチェーンそのものをコンサル、構築へ

 川重は造船、機械など自社の技術をフルに活用してサプライチェーンに必要なパズルを埋めるピースを開発、生産しています。2022年2月には液化水素運搬船を竣工させており、船名は「すいそ ふろんてぃあ」。気合の入り具合がわかります。既存の発電所が水素転換できるガスタービンも実用化しており、一連の発電施設の脱炭素化を事業化するところまで視野に入りました。

 太陽光発電で生成された水素を日本へ輸入して発電所や工場などで燃料として利用すれば、サプライチェーン内でCO2を排出しないゼロエミッションを実現できます。新たな技術と経験が必要とされるので、単に発注を受けた機械を納入するだけでなく経営指導や設備更新などコンサルタント業務も加わる事業内容に進化させることができます。水素を切り口に膨大なビジネス需要が沸き起こるのが実感できます。川重は2030年には4000億円の市場が誕生すると見通しています。

CO2回収と水素で合成燃料も

 CO2そのものを回収する技術も進化させ、事業化をめざしています。回収したCO2と水素を使って新たな「合成燃料」を実用すれば、文字通り一石二鳥の効果で脱炭素が進みます。

 当然、水素、CO2、合成燃料を通じて得られた技術と経験は、温暖化ガスを排出している車両や機械、航空機、エンジンなど既存の事業に応用され、カーボンニュートラル実現に向けてのビジネスとして再浮揚するチャンスを手にします。

 日本の製造業は、化石燃料を前提にした機械産業で切磋琢磨して世界の舞台に登場し、その強さを発揮してきました。カーボンニュートラルの要求は、その強さを根底から揺るがしています。内燃機関エンジンで世界を制した自動車産業が電気自動車を目の前に立ち往生しているのが典型例です。

100年以上の成功体験をゼロにする勇気と覚悟

 川重は100年以上かけて蓄積した技術と経験を高熱で煮たぎった坩堝に注ぎ込み、カーボンニュートラル時代にふさわしい技術とビジネスモデルを創出しようとしているように映ります。過去の成功体験を坩堝に注ぎ、ゼロにする勇気。そしてゼロからもう一度、世界に飛翔する製造業として再生する覚悟。

 川重の2030年グループビジョンから浮かび上がるのは、自らをゼロにする勇気と覚悟です。ビジョン通り、成功できれば、川重は改めて世界のKawasakiとして飛翔し、その経営手法はゼロマネジメントとして注目されるはずです。期待しています。

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